訓練兵
2,
大地は幼いころ、両親を亡くしている。
今から14年前、まだ大地が3歳のころ、両親は、
「地上に高圧電線を取り付け人類が暮らせる土地を確保する」 という作戦のために、地上に駆り出された。そしてそこでマンイーターに喰われて死んだ。
大地の元へ戻ってきたのは、その時2人が身につけていた戦闘服の布切れ1枚だった。
その後大地は、孤児院で訓練兵になるまでの間過ごしてきた。両親を無くした当時まだ3歳だった大地には、まだ両親の死について、詳しいことは分からなかった。ただ、 「両親の仇を討ってやる」 と幼いながら心に誓っていた。
そうして成長した大地は、親がマンイーターに喰われたことを知り、訓練兵に入ることを決意する。
訓練兵には、様々な境遇の人がいた。
大地と同じように親や大切な人を殺された人、「待遇がいいから」といって入った人、そして「養っていけない」と言われて親に捨てられた人。
しかし、そんなことは関係なかった。
訓練兵として厳しい訓練をしていくうちに仲良くなり、みんな本当の家族のように思えるようになった。
だから、明日から地上軍として、いつ命を落とすかわからない、そんな戦場で第一線で戦うことになるなんて想像できない。
「ずっとこのままでいいのにな……」
大地はそんなことを口にする。
しかし、世界はそんな少年に優しくはなかった。
ガチャッ……
大地がぼーっと宿舎を眺めていると、ドアが音を立てて開いた。
「おい、大地そんなとこでなにやってんだよ。あんまり遅いから強盗にでも襲われちまったのかと思ったぜ。」
そう言って大地のほうへ向かってきたのは、祐。
大地の唯一の親友だ。昔は超がつくほど仲が悪く、よく喧嘩をして教官に怒られていた…というのは、
またいつか話すとしよう。
「強盗に襲われるほど金なんかもってねぇよ。」
大地はそう笑って、宿舎のほうへ歩き出した。
「なんか、しみじみしちまってよ。もう今日で終わりなのかって……。」
「そうだな……。もう2年も経ったのか。俺とお前、最初はクソ仲悪かったよな!」
「その話はもういいだろ!」
2人は笑いながら、宿舎へと入っていった。
宿舎の中は訓練兵たちが騒いでいて、とても蒸し暑かった。広間のテーブルに並べられている料理は、いつもと比べて豪華なものばかりだ。
地下都市で生産できる食料は限られているので、地下都市ではいつも食料不足だった。なので訓練兵の食事も、質素なものばかりだったのである。
大地はいつぶりかわからない肉を頬張りながら、今日で最後となる同期との会話を楽しんだ。祐はみんなの前で得意のソーラン節を披露していた。
パーティーもだいぶ落ちついたころはもう、時間は真夜中になっていた。いつもだったらもうとっくのとうに寝ている時間である。訓練兵たちも次々と部屋に戻っていき、広間にはもう数人しか残っていない。
そのうちの2人は恋人同士のようだ。
きっとあの2人は明日から離れ離れになるのであろう。
その時、ギィ……と音を立てて扉が開いた。
「佐々木と吉川はいるか??」
扉から顔を出したのは鬼教官こと遠藤教官だった。
彼のスパルタ指導はとても厳しく、訓練兵の中でそう呼ばれている。
「…っはい!!佐々木です!」
「はい、遠藤です!!」
不意に現れ自分の名前を呼んだ教官に、大地と祐は少し焦りながらもビシッと敬礼をして応えた。
「あぁ…ちょうど良かった。お前達に話がある。そのままでいいから教官室まで来なさい。」
そう言って遠藤教官はドアを閉めて消えた。
何か悪いことでもしたのだろうか……
大地と祐は顔を少し強ばらせて、「お前が先に行けよ」、「いやお前だよ」と言って押し合いながら広間を出た。