114、ゴブ村長のお話
そんなことがあって、子ゴブリンに着いていったらゴブリンの集落について普通に歓迎された
何言ってるかは分からないがゴブリンにしては理性的だったんだ
いや、ゴブリンに知能がないと勝手に決めつけていただけかもしれねぇ
この驕りは命取りになる
もう少し気を引き締めておくか……
『ゴブ』
髭を生やしたゴブリンが代表して俺の前に立った
ゴブリンにも毛が生えるんだなー(棒読み)
「こいつが村長だってよ」
「ゴブの二文字に村長という意味があると?」
全裸はゴブリンの言葉を理解できると言っているが馬鹿なのであまり信用出来ない
『ガギャ』
「着いてこい茶を出すだってよ」
「天敵の人間歓迎するとか正気か?」
ゴブ村長の家は小さく作りがかなり雑だった
俺は難なく入れたが全裸が窮屈だと喚く
解せぬ……
「……茶不味ぅぅぅ!」
そんなこんなあって今に至る
そして、全裸は茶を再び吹き出していた
「ふ、癖になりそうだぜ……!」
全裸はフッと笑いながら口の端から溢れる血を腕で拭う
吐血する茶って毒じゃないだろうか?不味いってレベルではない
やはり俺達を始末するつもりだったのか
『ゲギョ……』
と思ったが同じ茶を飲んでほのぼのしている村長ゴブリンを見てねぇなと思い直す
人間にとって有毒でも悪食のゴブリンには気にならない程度のものなのだろう
寧ろ美味そうに飲んでる
「で、用件はなんだ?まさか、本当に茶を出すために連れてきた訳じゃないだろ?」
『ギギァゴギョグゲゲ』
真剣な顔でなにか話始めるゴブ村長
「……何言ってるかサッパリだ」
しかし、言葉が分からない
向こうはこっちの言葉を理解出来るようだが俺は向こうの言葉が分からない
英語とか苦手なんだよ俺
「え?ユウ分からないのか!?遅れてるー!」
「よし分かった殺す」
名状しがたいウザ顔を披露する全裸を【アイス・ハンマー】で殴殺する
「ヘイ!少し落ち着こうぜ!話し合おうぜ!平和的にいこうぜ!」
血煙から人型に戻った全裸が慌てて待ったをかける
実にいつも通りである
「このゴブリンは『我等、魔物にも心があることを人間に知ってほしかったのです』と言ってるんだぜ!」
「へぇー。だから何?」
魔物に心があればなんだというんだ
機械じゃないんだから当然のことだろうよ
『ゲギョゴブゴブギゴギャガギョ』
ゴブ村長は律義にジェスチャーも織り交ぜて喋ってくれているがジェスチャーも意味が分からない
「ふむふむ……長くて覚えれない!」
馬鹿も役に立たねぇ……!
「こんなときのための【メモリアル・オブ・シアター】」
馬鹿の記憶を除き見るために超級魔法を使う
記憶を覗く超級魔法
これはかなり疲れるはずなのだがテオの記憶は驚くほど単純で薄っぺらかった……記憶したそばから記憶が消えていくくらいに
アンナのときは爆死しそうになったのにな……
「よぅ、ゴブ村長これで言葉通じるはずだぜ」
【メモリアル・オブ・シアター】は継続して発動する魔法ではないが少し弄れば馬鹿の頭を覗く状態を維持できる
全く使い道がなくゴミのような応用である
『そうですか。では、ジェスチャーは必要御座いませんね』
言えない
ジェスチャー意味不明だっただなんて言えない
『貴方様をここにお連れしたのはあくまで子供達。我等の総意では御座いません』
「だろうな」
『しかし、あの子達は我等の言葉を理解出来る人間を連れてきたというではありませんか』
「で?」
『なれば、我等の意思を伝えてみたいと思ったので御座います』
「俺等がその意思云々聞いた後、気を悪くして皆殺しにするかもしれねぇぞ?」
『貴方様は我等の首に興味はありますまい?』
ニヤリと笑うゴブ村長
「…………。まぁ、ないな」
自分達の命は狩る価値はないだろう?というゴブ村長の言葉に同意する
こいつ等は首は事実安い
紅茶一杯分より魔物と会話するほうが価値のあることだ
「まぁ、価値がないから狩らないだろうと言われると狩りたくなるんだがな」
『それはそれは、我等は抵抗も出来ず狩られるだけに御座います』
意地の悪い俺に降参するように目を閉じるゴブ村長
「簡単に生きることを諦めるたぁ肝が据わってるじゃねぇか」
『人間がここに足を踏み入れた時点で皆、覚悟を決めましたからなぁ』
喉を潤すため茶を飲むゴブ村長
年寄りくさい
『我等、ゴブリンは人間ほど長く生きれない。人間ほど強くもない。常に隣に死が付きまといます。故に我等は後腐れなきよう全力で生を謳歌します。そして死を恐れない』
「それはテメェの価値観だな。全てのゴブリンがそういうわけじゃねぇだろ?」
『カッカッカ、その通りに御座います。先の言葉はあくまで私めの考え。他のゴブリンはゴブリンの数だけ別の考えを持っておりましょうな』
「人間と同じで。と言いたいんだな」
『然り。我々は人間と違います。然れど、人間と同じで個々の考えを持っているのです』
「で、結局何が言いたいんだ?何を伝えたいんだ?ゴブリン全てが人に仇なす害獣ではないことを広めればいいのか?」
『それは魅力的な考えですな。ゴブリンの死因の多くは人間に狩られることですからな。
しかし、私めはそのようなことを期待していません。
私めはただ伝えてみたかっただけに御座います。
我々ゴブリンにも人間と同じような心があることを』
ゴブ村長の目には伝わりましたか?という問いの色があった
「あぁ、これを俺と馬鹿じゃなくネロが聞いてたら面白いことになったろうな」
俺は魔物に心があらうがなかろうが狩ることに躊躇はない
テオは話に付いていけずポカーンとしている
ちょくちょく手を動かして何かしていたがどうせ下らないことである
「じゃあ、ここらでお暇するぜ。茶は……飲んでないから美味いとは言えんが次からは水とかにしろよ」
魔法を解き、立ち上がる
『ゴゥ』
見送りにゴブリンの長は頭を下げる
それの意味は分からない
知る必要もないことだ
「またなー!」
「【空間転移】」
全裸が手を振ると同時に図書館前に転移した
ゴブリンは人間に殺され人間を殺し続けるだろう
だが、人間を恨むことはない
弱い奴が悪いという単純な現実を知っているから
ゴブリンは、いや魔物全体にいえることだ
彼等は傲慢ではなく本能に少しばかり忠実なだけで人間より遥かに寛大な生き物である
まぁ、だからどうしたって話なんだけどね
俺にとって他者はすべからずどうでもいい物である
どこで死のうが滅びようが知ったことではない
そいつ等の生き様が暇潰しになるなら鑑賞くらいはするが特別思うことはない
そんなことより大事なことがある
「テオ、お前、魔物の言葉が分かるようになったの最近だな?」
テオの記憶を覗いたことで知ったこと
それはテオが魔物の言葉を理解出来るようになったのが正確な時間は分からないが最近のことである
「おぅ、なんか突然あいつ等喋るようになったんだぜ!」
何故、急に全裸がそんな技を得たのか
心当たりは一つ
確証はなく勘でしかないがテオが不死になるため投与された薬に含まれていた魔王の血、それがテオに何らかの影響を及ぼしていると思う
いつか研究所からパクってきたレポートにそんな記述はなかった
つまり、これは奴等がまだ知らない変化ということだ
この情報が何かの役に立つとは思えないがあるに越したことはない
もう少しテオを観察しておこう
変化のトリガーは殺すことってところか?
「中々、いい話が書けたぜ!ほら、ユウも見てみろよ!」
「五月蝿い今考え事中だ」
「えぇー、つまんねぇの。ネロくらい反応してくれてもいいじゃんよ」
全裸の発言に引っかかり横目でぐーたれる馬鹿を見るとその手にはチャット機が握られている
「…………。お前、チャット機に何書き込んだ?」
そういや、ゴブ村長と話してるときこいつチャット機に何か書いてたんじゃないか?
「面白いこと!」
自分のチャット機で馬鹿の仕出かしたことを確認して
全裸を微塵切りにする作業に取りかかった
全裸を微塵切りにした後、アンナに解毒薬の材料を届け家に帰るとネロが決意した男の顔をしていた
いや、ネロは女なんだけどな
「僕はもう魔物も殺しません!」
馬鹿全裸のせいで魔物にも待っている家族がいる、苦しんでいる魔物がいる、人間のもたらす理不尽に怯える魔物がいることを知ったネロはやはり予想通り言った
魔物を狩って金を稼いでる冒険者のいうことじゃねぇよ
全裸、マジ、余計なこと、しやがって……ッ!
魔物を殺すのが可哀想なら、お前は豚や牛に対してもそう言うのか?
俺は喉まで出た言葉を飲み込んだ
話をややこしくするのは得策ではない
「ベルさんには非殺生モードになってもらいましたから」
聖剣にそんな無駄機能が何故ある
「ユウ様がいくら正しい事を言おうと僕は我儘を通しますよ」
そんなこと言われたら論破したくなるじゃないか
「姫様を殺そうとする奴がいてもか?」
「倒して説得します」
甘いな
殺すより難しいことだと知っているだろうに
「姫様が殺されてもか?」
「エミリアは殺させませんよ。僕が全身全霊を以て守りますから」
譲る気はないようだ
理屈とか無視して感情を優先する人間
これは論破は出来ないな
こういうタイプの人間は実際に挫折しないと分からない
……『あいつ』は死んでも分からなかっただろうがな
いや、分かってって納得しなかった
テメェが死ぬことになろうが持論を変えなかった
「別にお前が誰も殺さねぇって言うのは構いやしねぇよ。
ただ知っておけ。
殺すより生かす方が困難で、いずれ自分を滅ぼすことをな」
俺は、ネロが前世の馬鹿な知り合いに重なって見えていた
最期の最期まで綺麗事を突き通して俺の本性を知りながら庇い死んでいった馬鹿野郎
あまりにも愚かしい死に様だった
ネロもいずれ死ぬだろう
それが笑い話にもならない死に様か英雄譚になる死に様かは分からないが俺は鼻で笑うだろう
馬鹿な奴、と
あの時と同じように死体に吐き捨てるだろう
どうでもいいことだが俺とネロの会話を聞いて感動していた姫様がネロをお持ち帰りしようとしていた