112、続・狩りの帰りに
「待って待って待ってください!」
オークから助けた異世界版貞子にまた呼び止められ、貞子(仮)が俺の足に縋り付く
なんかホラーっぽいな
「まだなんかあんの?」
俺、帰ってツバキの淹れる紅茶飲む予定があって暇じゃないんだが
「私私私、奴隷なんです」
「で?」
「そのそのその、売られた先から逃げてきて……」
「いたぞ!」
貞子(仮)が言い終わる前に厳ついお友達が現れた
「手間かけさせやがって!」
「殺さずに捕まえろよ!」
タイミング良すぎるだろ
こいつ等スタンバってただろ
出るタイミング窺ってただろ
「はいはいワロスワロス」
「助けて助けて助けてください……」
貞子(仮)が再び俺に助けを求める
奴隷の少女(?)を追っ手から助ける、よくあるお約束イベントだ
大体の主人公は奴隷を助けるだろう
うちのネロも100%助けようとするだろう
それが勇者の取るべき行動
だからこそ
「だが、断る」
助けないを選ぶ
見ず知らずの奴隷を助ける義理は俺にはない
気分が良ければ助けたかもしれないが今は普通も普通
傍観者気取って動きたくないときの気分だ
故に、貞子(仮)を厳ついお友達に引き渡してさっさと帰ろう
「そんなぁそんなぁそんなぁ」
貞子(仮)は情けない声で崩れ落ちる
どんな境遇かは知らんが俺の知ったことではない
「なんだガキもいるじゃねぇか」
「ボク、ママはどうしたんでちゅかー?」
「気をつけろオークの死体がある」
「そこの乳児の親が近くにいるかもだぜ」
助けはしないが罪人は殺そう
乳児なんて言われたのは流石に初めてだぜ
「おい、ガキンチョ!痛い目見たくなかったらその女を……」
それが厳ついお友達の一人の遺言となった
風に操られたオークの棍棒がそれの顔を陥没させた
「このクソガキぃ!」
「魔法なんて猪口才な!」
「囲んで砂にしちまぇ!」
厳ついお友達は怯むことなく瞬時に星が俺だと割り、熱り立ち殺しにかかってきた
数人は仲間が殺られている間に逃げるのが賢明だと悟り背中を向けている
だが、全てが遅い
俺を身長から合法ショタと言った奴と同じような末路を辿らせてやろう
殺すほどキレてないがついつい殺っちゃうんだ
「イッツ ターミネート タイムだ」
俺は【亜空間】から短剣を抜き、向かってくる厳ついお友達をターミネートするのだった
二分後にはぱっとしなかった森がオークと人間の屍が沢山転がる中々に良い光景になった
人間の方は死んでないのもいるが仕置きは充分だし止めを刺さず放っておいてやろう
「さて、いい加減帰るか」
理由はどうであれ結局助けちまったなー
今度の今度のこそ帰ろうと
「あのあのあの」
二度あることは三度ある
まだ貞子(仮)は俺を解放してくれないようだ
「さっさと言え。ある程度は付き合ってやる」
諦めて付き合ってやるともさ!あんまり調子に乗った要求してきたら殺すけど
あれ?俺、人軽く殺しすぎじゃね……?今更かなー
「最後に最後に最後にサンドラ王国まで連れて行ってくれませんか?」
「あぁ、それくらいなら許容範囲だ」
【空間転移】で一瞬だ
「だが、その前に服を着ろ」
貞子(仮)は無駄に長いピンクの髪で大事な所が隠されているが裸なのだ
こんなのを持ち帰ったら俺は変態のレッテルを貼られること間違いなし
「でもでもでも、服が……」
貞子(仮)はオークの肉塊をチラリと見る
そこには破れたボロ布が散らばっている
「あんなゴミが服だったのか」
「なにせなにせなにせ、私は奴隷ですから……」
「なら、落ちてる服を使うか」
転がっている厳ついお友達から服を剥ぎ取り貞子(仮)に投げ渡す
自分の服を貸すと思った?残念!よく見る主人公とは違うんだよ!
「ありがとうありがとうありがとうございます。サイズもピッタリです」
俺が剥いだの少し大きいかなと思ったんだが貞子(仮)は予想より大きかった……
髪が長いと小さく見えるんだ
「お前、その鬱陶しい髪邪魔じゃないのか?」
「邪魔邪魔邪魔ですよ。でもでもでも、切れないんです」
俺の言葉に悲しげな声で返す貞子(仮)
「呪いでもかかってんのか」
それならシスターの拳で治せるかもしれないが
「違います違います違いますよ顔を隠すため切れないんです……」
「隠す?なんで?」
ソラみたいに隠すほど美人には見えない
それに隠すだけなら仮面とか被ればよくね?
奴隷だから無理だったんだろうけど
「それはそれはそれは私の顔が醜いからです……」
「ほぅ、それは見てみたいな」
醜いと言われれば見たくなるのが俺の性
デリカシー?そんなもの犬にでも食わせておけ
「後悔後悔後悔しますよ?」
貞子(仮)は勿体ぶらずにあっさりと前髪をどかし隠していた顔を晒す
「へぇ」
髪に隠れていた貞子、ではなくただの女の顔は焼き爛れていて肉が剥き出しになっていた
「ほらほらほら、醜いでしょう?嫌に嫌に嫌になるでしょう?」
自嘲するのとは少し違う笑みを浮かべる女
「はぁ?それだけか」
それに対して俺は嘲笑を返す
「まさか、たかだか顔半分が火傷してる程度で醜いだの後悔だのほざいたのか?確かに後悔するレベルで期待外れだったな」
ハッ!と鼻で笑ってやる
この程度で醜いとか本当に醜い奴に謝れって話だ
「え?え?え?」
俺の反応に困惑する女
「お前より酷い顔した連中なんざ腐るほどいるぜ?その程度でウジウジするとは片腹痛い」
「でもでもでも、私はこの顔のせいで……」
「笑われたか?虐げられたか?クソみてぇな同情でもかけられたか?そりゃそうだろうな。人間って生き物の多くは自分より劣った者を見下すものだ。多くの人間はその事実を認めねぇだろうがな。
それで自分の醜さから目を逸らす。その行動自体が既に醜いだろ?でも、醜いからこそ人間なんだ!人間はお前の顔より醜いんだ舐めんなよ」
俺の戯言、狂言、価値観に女は呆然としていた
「あぁ、すまねぇ話が逸れたな。少なくとも俺はお前の顔で笑わないってことだ」
嘲笑はノーカウントな
「…………。」
女は急に無言で涙を流し始めた
俺、泣くようなこと言ったか……?
「私私私、そんなこと言われたの初めてです……」
知らんがな
「名前を名前を名前を教えてもらえませんか?」
女は涙を血で汚れていない袖で拭い俺の名を聞く
「俺はただの通りすがりの冒険者だ。名は教えん」
名を教えなかったのはなんとなくだ
なんとなく、殆ど勘だが、こいつに狂気を感じた気がしたのだ
「それはそれはそれは残念です。私は私は私はイルマーナといいます」
女は、イルマーナは薄く笑い……俺の背に悪寒が走った
「ではではでは、行きましょう冒険者様。また追手が来てしまう前に」
イルマーナは俺の手を引いて歩き出す
ガリガリなのに意外と力強い引きだった
【空間転移】を使えば一瞬で帰れる
だが、それはやめておけと俺の勘が警告している
この女は何か隠していやがる……
サンドラ王国に着くまで質問責めにされた気がするが思い出すのが億劫だ
「ここまでここまでここまでありがとう冒険者様」
イルマーナは微笑を絶やすことはなかった
普通の奴隷なら追手への恐怖か緊張か逃げれた安堵かの表情を浮かべると思うがイルマーナは不気味なほどに微笑むだけ
それに、一度も一瞬たりとも瞬きせずに視線を俺から外さなかったのがちょいと怖かった
もう会うことはないと思うがピンク色の貞子は怖い……
その日、鳥肌が治まるまで《ホープ・オブ・ヒル》でパフェを貪った
意外にミミルのウサ耳とアホっぽい顔には癒される
イルマーナは一人でスキップをしながら鼻歌を口ずさみながら歩いていた
「おや、随分ご機嫌じゃないですか」
後ろから男がイルマーナの肩を叩く
イルマーナは追手かもしれないなど警戒などせず振り向く
「あらあらあら、レヴィじゃない。どうかしたのどうかしたのどうかしたの?」
そして、イルマーナは顔馴染みの悪魔に気草に話しかける
「どうしたのじゃありませんよ。私の部下が何人死んだと思ってるんですか」
「それはそれはそれはレヴィの自業自得でしょう?でもでもでも感謝してるわ。おかげでおかげでおかげで勇者様に巡り会えたんだもの!」
雄樹は一度も自分が勇者とは名乗らなかったがイルマーナは初めから雄樹のことを知っていた
「それもそうですね。私が貴女がオークの慰み者にされそうなところに勇者が居合わせるようにセッティングしたんですから」
ククッと笑う悪魔
「レヴィってレヴィってレヴィって言葉を選んでいうけど頭おかしいよね?」
レヴィは言葉を選んでいない発言に顔を顰めた
「狂ってる貴女が言われるのは苦痛ですね……」
「あらあらあら、皮肉のつもり?」
ケラケラと笑うイルマーナに溜め息を溢し、いつも通り笑みの仮面を被るレヴィ
「いえ、皮肉ではありませんよ。自らの手で《欲深の銀鼠》の幹部である証の入れ墨を顔半分と一緒に焼いて自分から奴隷にまで身を落とすような人間がおかしくないわけがないでしょう」
「おかしいおかしいおかしい?分からないわね。私は私は私は愛する人の要望に答えただけよ。それがそれがそれが、おかしいと言うなら、そう!恋は盲目ってことね!」
「要望って貴女。頭のネジはどこに忘れたんですか?」
イルマーナに愛されてしまった村人は言った
『《欲深の銀鼠》の幹部と付き合える訳がないよ。それ以前にあんた怖いし』という拒絶を
当時9歳の彼女はこう解釈した『《欲深の銀鼠》の幹部が嫌なら、この顔をこの顔をこの顔を焼けば愛してくれるのね?』と
次に愛されてしまった貴族は言った
『貴様を愛すだと?返吐が出る。愛が欲しければ奴隷にでもなればいい。ペットとして可愛がられるかもしれんぞ?』という戯言を
一ヶ月前の彼女はこう解釈した『奴隷に奴隷に奴隷になれば私を愛してくれるのね?』と
「貴女に好かれた方々には心底同情しますよ。今度、墓参りに行きましょう」
イルマーナに愛された男達はもうこの世にいない
「ネジがネジがネジが飛んでるのはお互い様よ」
「貴女と《嫉妬》には遠く及びませんよ……」
貴女と喋るの疲れますねぇと体から力を抜いたレヴィ
「じゃあじゃあじゃあ、私は行くわよ?勇者様は勇者様は勇者様は私が愛してあげるから安心しなさい」
「はいはい、頼みましたよ」
身を翻しイルマーナは立ち去った
レヴィは顔に貼り付けた仮面を脱ぎ捨て唾を吐く
「マジで気持ちわりぃクソ女だぜ。あれには死んでも好かれたくねぇな」
イルマーナは他人を愛しているのではない
他人を愛している自分を狂信的にまで愛しているのだ
その愛はその他人を死に至らしめる狂気の愛だ
「人間ってのは狂ってる連中ばっかだな」
読んでいただきありがとうございます!
はいはーい!天の邪鬼でーす!
推理モノとか書ける気しねぇわ、と絶望しかけの天の邪鬼でーす!
第三勢力の《欲深の銀鼠》にも出番あげたいんですけどプロット見たら最後しか出番なくね?と思ったので幹部を投下してみましたー!
プロットはお兄さんの気分でよく変わりますが結末は変わりません
それ以外は変わりまくり祭だぜぇ!
「たぶん勇者の日常(仮)」、ついにPV50000を突破してましたァァァア!ひゃっほぉぉぉう!
まだ5万とか言ったらいけないぞ!
こんなんが5万いったんだ凄いだろ!
なんかリクエストあれば書くよ!
てか、閑話のネタ、プリィィィズ!
by 設定の齟齬と結末までの道筋から目を逸らす天の邪鬼