閑話、異世界で迎える新年
年末ですよー
異世界に来て自称天才錬金術師のアホ毛ともいアンナに魔改造され魔力で充電出来るようになった我がスマホが12月31日23時を指していた
異世界なのに地球とそういうところは一緒なんだなと思ったが駄神が意図的にそうしたとミュラーに教えられた
あの愚神、日本のアニメ文化に毒され、ここ五百年でこの世界を自分好みの色に染めていたようだ
わざわざ過去にオタク系の勇者を送ってまでしてだ
それはやり過ぎだと馬鹿神は上司(神より上の何か)にキレられ色々、制限されているらしい
ざまぁみさらせ
前の世界ではあまり気にしなかったが人は何故年の変わり目で跳びはねたがるのだろうか?
全裸が鏡餅を頭に乗せて一時間前の今から構えている
あれは馬鹿だから仕方無いが姫様もが
「ネロ、年の始まりは一緒に跳んで越しましょうね」
などと言っている
ネロは断る理由がないので頷いていた
「ユウ、俺達も共に年を跳んでこえようじゃないか!何、遠慮することはない!勇者であるユウは一応、俺と釣り合うからな!」
ナルシストがうざいのはいつものことだから聞き流す
「新年一撃目はどんな毒がいいかしらね?」
俺の短剣にどの毒を塗って刺そうか迷っているショコラ
危険なショコラさんは無視出来ませんよー
ルゥは年越し蕎麦を食っている
量は言うまでもなくルゥの小遣いを圧迫するものだ
ソラはうとうとしているツバキを優しく撫でている
ミュラーは餅を口一杯に頬張っている
去年までは一人で静かにゲームしながら越してたものなのに今では賑やかなものだ
フライングでチャット機にシルヴィアが明けましておめでとうございますと書き込んでいる
それを見て前の世界のことを思い出した
……あの馬鹿も一時間前にメール送ってきてたな
着信拒否にするたび母さんにチクりやがって……
それでも無視したら弟経由で送ってくるし鬱陶しいことこの上ない男だった
メール自体馬鹿みたいに長いし俺以外にも長ったらしいメールを送ってたんだろうな……
返信はあけおめの四文字
それだけで野郎一週間は有頂天だったな
ぼっちに絡んでそんなに嬉しいの?爆発しろリア充、と思ってたなー
あれに比べると全裸とかナルシストの戯言を受け流すなんて造作もない
「……主、考え事か?」
ソラの顔、正確には道化の仮面がかなり接近していた
「お、ソラか」
おくびにも出さないが今のはかなり驚いた
「……主、そろそろ年が変わる」
「あれ?時間経つの早くね?」
時計を確認すると23時58分を指している
ショコラは短剣を俺に投げようと構えている
「ぼーっとしてくるからだぜユウ!こっちで一緒にスクワットしようぜー!」
全裸は何故かスクワットをしていた
「ふ、テオ、君は、ふ、その程度かい?」
なんか張り合ってナルシストもスクワットをしていた
涼しい顔してるつもりなんだろうが余裕が全く感じられない
「お前等、馬鹿みたいに跳んで歳越すんじゃなかったのか?」
そんな息絶え絶えの状態で大丈夫か?
「「し、しまった……!」」
驚愕の表情を取る阿呆が二人力尽きて床に倒れる
「ユウえもんなんとかしてくれ!」
阿呆な全裸がサムズアップでお願いしてくる
「任せろ新年一発目の魔法を使ってやんよ」
半笑いのサムズアップで返す
「え?ちょ、待っ」
はい、0時になりましたー
「【ファイア・バースト】」
同時に全裸の肉が爆発して焦げる
「いっせーので」
「せーのですのよ」
同時にネロと姫様が跳ぶ
「今!」
「……浅はかなり」
同時にショコラが俺の短剣を投擲しソラに弾かれる
「ふー、ご馳走さん」
「満足ですぅ」
同時にルゥとショコラが食事を終える
「あけましておめでとうー!」
同時にアホ毛が家に窓から侵入してくる
「ふ、俺はクールだから跳ばないのさ。疲れて跳べなかった訳ではない」
その後にナルシストがなんか言っている
アホらしい
「よし、じゃあ寝るか」
「……ツバキ行くよ」
メイド『姉様抱っこ』
俺は欠伸をし、ソラは眠そうにしているツバキを担ぎ上げ自室に戻ろうとする
「ユウ!僕が来たんだから何かリアクション取ろうよ!」
アホ毛が回り込んで通せんぼする
「あけおめ、ことよろ、おやすみ」
「一詣り行こうぜ!」
一狩り行こうぜ!の乗りで初詣に誘われた
おやすみって言ったよね?スルーか、おい
「初詣の文化まで持ち込んでんのか歴代勇者は……」
なんとも暇を持て余していたんだろうな
俺もだけど
「いらっしゃいっす!」
アンナに着いていくと神社ではなく教会に着きメリケンサックを装備している修道女が揉み手で歓迎してくれた
「帰るわ」
「ちょっ!なんでっすか!?」
踵を返そうとしてシルヴィアに腕を掴まれる
「何が気に入らなかったんっすか?言ってくれれば直すっすよ?」
なんで慌てて必死に止めるかのほうが謎だよ
暫く睨み合い、俺は鬱陶しそうにシルヴィアは捨てられた子犬のような目で
睨み合いか?
睨み合いもどきは先に俺が折れてやり終わる
「なら言おう。違和感が半端ないんだ」
「違和感と言うと?」
違和感に心当たりがないようでネロまで問うてくる
「俺の世界じゃ初詣は神社でやるもんだ教会じゃあないぜ」
ジョジョ立ちをしようと思ったが出来なかった
「雄樹様ぁ、この国にぃ神社はありませんよぉ」
知らんがな
俺がミュラーに説明をさせている間に他の奴等は教会には違和感しかない賽銭箱に銅貨を放り込み魔法で浮かせてある鈴を鳴らし神に願い事をしていた
ミュラーの説明を聞き流しそちらに聞き耳を立てる
「今年も俺が一番、輝き、目立ち、主役であるようにするといい!」
実にナルシストらしい
内容はともかく命令系って何様だルシウス
それに願い事は口にしないものだったはずだ
「今年こそ父様の無念が晴らせますように」
ショコラはわざと俺に聞こえるよう言ってるな
「……ツバキが幸せでありますように」
ソラはええ娘や……
異世界の参拝では願い事を口にする規則なのだろうか?間違ってね?
口にするよう伝えたのは歴代勇者だろうなー
聞いて面白いからだろうなー
分かるわー
「今年は死にませんように!」
全裸の願いが切実だった
これじゃ殺りにくいなぁ……
まぁ、殺るけどね!
「その身には過ぎた願いっすね……」
哀れみの目を向けるシルヴィア
「今年も《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》の肉が食いたい」
ルゥは涎を溢しそうになっていた
「何か前代未聞の事件が起こってほしい」
物騒な願いをするアンナ
メイド『誰よりも強いプロのメイドになりたいです』
プロのメイドには強さが必要なのだろうか?
「ネロと式を挙げたいですわね。今年中に口説き落としてみせますわ」
姫様は今年の抱負を口に出していた
ネロには聞こえないように姫様の執事クロルが魔法を使ってフォローしてくれていた
姫様的には聞かれているほうがいいのだろうがネロは男装してるだけで女である
それを姫様はまだ知らない
悪魔であるクロルはなんとなくそれを察していたようで俺より先に手を打ってくれたらしい
ナイス、クロル
なんのメリットがあってやったんだクロル
まさか貸しとか言わねぇよなクロル?
「クロル、貴方もどうですの?」
姫様はいつの間にか居る執事に慣れているようで何の疑問も持たない
「お言葉ですが私は神のような畜生になどに祈りませんよ」
ニコリと断るクロル
「悪魔ごとき害虫がぁ、神様を侮辱するなんてぇ……消しますよぉ」
聞いていなかった説明を中断しミュラーがクロルに食って掛かる
「ふふ、怖いですね」
悪魔は天使の殺気を涼しげに受け流していた
「今年も皆が幸せに暮らせますように」
ネロは近くで火花が散っていることに気付かず参拝する
俺はそんないつも通りの光景に微笑し賽銭箱に銅貨を投げ入れるのだった
皆が参拝を終え、ミュラーとクロルのじゃれ合い(ミュラーは本気)を見ながらぼーっとしていた
「ユウ様は何を祈ったんですか?」
ふと、ネロが問いかけてくる
それに俺は
「はぁ?神に祈る訳ねぇだろ」
と笑いながら返す
俺は物心ついたときから神様なんてもの信じてなかった
何故ありもしない偶像に縋るのか疑問でしかなかった
だが今は神の存在を認知した
それでも俺は神頼みしない
神は幻想ではなくなったが傍観者だ
傍観者は人の願いを聞いても叶えない
結局、神に祈るのがアホらしいのに変わりはなかった
「挨拶はしとくぜ。あけましておめでとう愚神」
誰にも聞こえないように今も俺や他の勇者を覗き見しているであろう神に言った
その後、教会で安酒と果汁ジュースが振る舞われ、俺が迷わず果汁ジュースを取ってチビチビ飲む姿が可愛らしいと参拝に来た他人にほざかれムシャクシャした俺は新年二発目の魔法【ブリザード・ランス】で全裸の頭を貫いた
完全に八つ当たりだが反省はしていない
読んでいただきありがとうございます!
はいはーい!天の邪鬼でーす!
地獄の新年を迎えた天の邪鬼でーす!
あけましておめでとうございやがります!
皆様、如何な新年をお迎えでございましょうか?
わたくしはノー勉で新年を迎えてしまいましたよ……
今年、今月、受験だっていうのにだぜ?笑えるだろ?
去年の抱負「さぁ、勉強を始めよう」とゲーマー兄妹ばりのキメ顔で言ったのにだぜ?
まぁ、そんなことはどうでもいいのでございますよー!よくないか!しかし、後悔はしねぇ!
今年の抱負は「受験にビシッと合格して、この小説の一章の終わりまで書くこと」だーだっだっだ!
テンションMAX!いっけー!
あ、これ一宮さんの子の真似になっちゃうわ
それはさておき、今年もよろしくお願いしまーす!
次回から本編に戻ります
「地獄で会おうぜ」
by 死地を丸裸で駆ける天の邪鬼