閑話、クリスマス・レイド
クリスマスにのみ実態を現す聖獣
その肉は一度食えば忘れることは出来ないと言われるほど美味
その毛皮はあらゆる寒気も許さない
【コキュートス】などの魔法すら無効果するほどの加護がある
その角から作られた薬は寿命を十年延ばすと言われる
その角に実る宝石は死ぬまで貴族のような暮らしが出来るほど高額で取引されている
毎年、その聖獣に挑む冒険者は後を断たず、皆すべからず失敗して帰ってくる
今年こそはと聖獣を狩るためギルドに冒険者は集っていた
チターナは最近、目を付けている娘を落とすために聖獣の宝石を欲し
ソフィーレはそんな妹の手助けのために
ルゥは絶品な肉を食うためにFランクの冒険者として
聖獣狩りに参加した
《レイディアの森》
それは《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》が現れる森で冬の間は雪が止むことが一切なく白銀世界となる
「寒い」
ルゥは自分の体を抱き震えていた
分厚い外套を着込んでいるというのに全身を刺すような寒さが襲ってくる
「それは当然です。この森には今、《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》がいるんです。あの聖獣は体温を奪う雪を降らせていると噂があるです」
ルゥの隣を歩くちびっこチターナはいつもの乏しい表情でいながらガタガタと全身を振動させていた
「全く、この程度の攻めでギブアップなんてだらしないわね」
全員で50人程度のパーティの中で唯一普段着のソフィーレは余裕な表情で森を進む
「なんであの変態は大丈夫なんだ……?」
「姉さんはプレイの一環と思えば、この寒さは体を火照らす快楽でしかないのです」
「うわぁ……」
亀甲縛りでハァハァと言ってなければ少しはカッコ良かったかもしれないが所詮変態は変態でしかなかった
《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》に辿り着くまでの道のりが長い
魔物はよく出てくる上、白いウサギや白い熊に白いスケルトンなど白くて見えみくいのが厄介
寒さで鼻が役に立たず目視できる距離まで接近に気付けない
先頭を行く変態や壁役がダメージを負う
変態は魔物に不意打ちを食らわされて小躍りし
壁役のオッサン達は
「ハッ、この程度では俺達は止まらねぇ!」
「グッ、儂は《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》を見て年を越すんじゃあ!」
「ガッ、聖獣の宝石を持って帰るってアイツと約束してんだよ!」
「ゴフッ、これが終わったら結婚すんだ……倒れる訳にゃいかねぇだろぉぉぉ!」
死亡フラグを乱立し踏ん張っていた
《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》に辿り着く前に倒れるんじゃなかろうかとルゥは若干不安になった
それと覚えにくいよ《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》普通にトナカイでいいじゃないかとも思った
そして、それは唐突に《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》とエンカウントした
某デスゲームのようにボス部屋などはなく、この森全域が巨大な聖獣の領域
冒険者達は《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》を見上げ……安堵の息を吐き、大型の魔物を狩るときの陣形を敷くため位置取りを始める
この聖獣は攻撃されない限り虫けら(冒険者)の存在など気にもしないのだ
故にのんびりとまでは言わないが余裕を持って移動出来る
はずだったのだが何処からか火の玉が《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》にぶつけられた
それは冒険者達を絶句させた
「だ、誰だぁ!?【フレイム・ボム】撃ったのは!?」
「作戦が台無しじゃねぇか!」
「怒りませんから先生に言いにきなさい!」
「皆、目を閉じなさい!誰も見てないから正直にやった人は手を上げるように!」
「馬鹿なことしてると《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》の攻撃が来ますよー!?」
ツッコミを受け、わぁー!と散らばる冒険者達に巨大を活かした突進を仕掛ける《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》
「こっから先は通行止めだー!」
「越えれるものなら越えてみせろー!」
「やぁーってやるですー!」
それに立ち塞がるのはタワーシールドを持った壁役のオッサン達
「ヘイ!カモン!痛いの来てー!」
それと変態もいる
激突、そしてあっけなく吹き飛ぶオッサン達と変態
「「「タコス!」」」
「か・い・か・ん……!」
「あいつ等何しに行ったんだー!?」
「死んでないとは思うがヒーラー助けに行ってくれ!」
「応!おじさんに任せな!」
「まだ、突進止まってないですよー!?」
わぁー!と再び逃げ惑う馬鹿共
今度、立ち塞がるのはルゥ
「面白い!どっちが上か勝負だ!」
「坊主、危ねぇぞ!」
「坊主、逃げろ!流石に死ぬぞ!」
「坊主、無茶だ!ミートパイになるぞ!」
「あんた等、いちいち止まらないと喋れないんですかー!?」
ルゥは背に声を受け強く踏み込み
「ルゥはッ!女だああああ!」
全力全速の蹴りを突進してくる《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》の額にぶちこんだ
『Gaaaaaaaaa!?』
ルゥの蹴りは《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》の突進と均衡する
「「「す、すげぇー!」」」
「もしかして、このまま行けます!?」
そう言った瞬間、ルゥは押し負けて吹っ飛んだ
「「「あぁ……」」」
「僕か!?僕が悪いのか畜生!」
青年は持っていた杖を雪の上に叩きつける
「落ち着けよ。俺は所定の位地に着いたぜ?」
そう言われるとコホンと咳払いをする青年
「総員、所定の位地につきましたね?壁役と勇敢なお嬢さんが稼いだ時間を無駄にしな……」
「きばっていくぞー!」
「「「おおおおー!!」」」
「畜生!最後まで言わせてもくれねぇのか!?」
青年の悲痛なツッコミを打ち消して冒険者者達は回戦の雄叫びを上げる
「前衛突撃じゃー!」
「「「応!」」」
前衛の鎧などで防御を固めている冒険者は《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》をその場に釘付けにし、攻撃する
「後衛は前衛の援護メインですよー!」
「「「知っとるわボケー!」」」
後衛は前衛を補助する魔法や《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》の攻撃を出来る限り妨害する
「遊軍は適当に動くといいですわ」
「「「イエス!ユアハイネス!」」」
遊軍は戦闘不能になった味方の回収や近寄ってくる魔物を撃退する役目を持つ
「おぉ!これなら狩れんじゃね!」
「おい!そこの若造油断すんじゃねぇ!」
「あれで《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》に一つも傷つけれてねぇんだぞ!」
「踏みつけなんてプレイ……アー!」
「Sランクがやられた!?」
「大丈夫だ問題ない!変態はすぐ戦線復帰するから!」
「グダグダじゃね!?」
「今さらだろう……?」
「あ、《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》の目が光った」
「「「逃げろおおおおー!?」」」
《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》の眼が青白く光るのを見て前衛、後衛、遊軍、全員離れるため走りだし……凍る
《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》の範囲攻撃【コキュートス】もどき範囲も威力も【コキュートス】には劣るものの前衛を全滅させるのには充分なものだった
「今年も前衛全滅したかー」
そう、ある程度時間が経つと《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》は毎年この【コキュートス】もどきを使ってくるのだ
氷漬けにされた人は何故か死なないのが不幸中の幸いといえるだろう
大体は【コキュートス】もどきのせいで諦め解散している
「もう疲れたよ《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》……」
「もうゴールしてもいいよね……?」
毎年恒例の氷漬けで後衛諦めムード
誰もが解散しようぜー、凍った前衛回復して帰ろぜーと言葉を溢す
そんな時
「さっきのは痛かったぞぉぉ!」
叫びを伴い灰色の人狼が降ってきた
その蹴りは油断していた《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》の鼻っ面に直撃し《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》を地に平伏させる
『『『わーぁお……!』』』
あんぐりと口を開いて見たことのない状況に動けず冒険者は茫然とする
《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》を沈めたルゥは呆けている冒険者を見回し息を吸う
「なんだ貴様等のその様はああああ!」
力ある誇りある獣は叫ぶ
「始めから勝つ気がないなら戦場に立つな!どうせ勝てないなどの諦念を持って武器を持つな!戦士であるならば無茶でも無策でも無謀でも勝利という肉に喰らい付け!妥協せずに戦え!全身全霊を以て戦え!一秒、一瞬、刹那、諦めを持たず戦え!まだ立てるなら戦え!生きているなら戦え!戦え!戦え!戦え!」
人狼の姫は全てを圧倒する気迫で信念を叫び
その声は冒険者を震わせた
魔物を恐怖させた
灰狼より強者である《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》をも怯ませた
「……ふん、負け犬ばかりと思っていたけど、少しは骨のある奴がいたようね!いいわ!ワタクシも手を貸して差し上げますわ!」
傍観者を気取っていた強者を動かせた
「情けねぇ、あんな若い嬢ちゃんに目ェ醒まされるなんてなァ」
「ふ……、後衛なんて柄じゃねぇぜ」
「まだ、終わってないみたいだし俺等も戦うか!」
「僕だってやれますよ!」
「「「AAALaLaLaLaLaie!!」」」
馬鹿達を本気にさせた
『Gaaaaaaaaaaaaa!』
序でに言葉を理解する《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》も本気にさせていた
「本気の狩りを始めよう!」
~二時間後~
『Cooooooo!』
「最後の一撃だああああ!」
冒険者の屍(死んでない)が多く転がる中、全身の毛皮を燃やされ満身創痍な《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》に同じく満身創痍のルゥが死力を振り絞り蹴りを入れる
『Gaaa……』
もろに蹴りを受けた《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》は弱々しい鳴き声を最後に倒れた
「勝った……?ルゥ達は勝ったんだー!」
「「「よっしゃああああッ!」」」
勝利の絶叫が森を響き渡る
「ほらな?諦めず戦えばなんとかなるもんだろ」
ルゥは力尽き雪の上に倒れ込んだ
「はい、その通りです」
ルゥは上に覆い被さるように倒れ込み自然な流れでキスしようとするチターナを頭突きで撃退し勝利の余韻に浸る
そのルゥの前に悠然と立つ女がいた
ルゥに次いで活躍していた精霊を使う冒険者だ
「何か用?」
「貴女、名は?」
ルゥの質問を無視し質問をする精霊使い
それでキレるほどルゥは短期ではなく気力もなくなっていた
「ルゥだけど何か用?」
「そうルゥって言いますの。貴女、今日からワタクシの付き人になりなさいな」
決定事項だというように傲岸に傲然と傲慢な態度で告げる
「断る」
考慮することなく吟味することなく即答であった
「ルゥは誰かの物になるつもりはない。それは戦いを止めるのと同じだ――死ねという意味だ」
そう吐き捨てルゥは雪の上で寝息をたて始めた
「へぇ……、ますます気に入りましたわ!ワタクシは《強欲》ではありませんが《傲慢》に貴女を手に入れますわ――必ず、ね」
碧の目を細めルゥの髪を撫でる金髪の女
「寝ていますとワタクシの言葉は届きませんし、所有物に加えるのはまた次回といたしましょう。暫しの別れですわワタクシと同じお姫様」
“元”サンドラ王国第一王女、レイティア=ドートリシュはSランクの冒険者として参加していた
「彼女との出会いがワタクシへとクリスマスプレゼントですわね」
レイティアは部下を引き連れ国へ帰るのだった
その後、ルゥが目を覚ましたのは見知らぬベッドの上でチターナの唇が数cmに迫っていた時だった
チターナを壁にめり込ませ《シェーヴェルヌィ・アリェーニ》の肉を持ちルゥはネロの家へと帰ろうとし人がゴミのように密集する地帯になっていたのでシルヴィアのいる教会で焼肉をすることにしたのだった
読んでいただきありがとうございます!
はいはーい!天の邪鬼でーす!クリスマス終わってからクリスマスの話を投稿する天の邪鬼でーす!
勉強で執筆が遅れたんだから仕方無いやん?
閑話、つまり無駄話、本編に関わらない内容にするつもりだったんですけどルゥが《傲慢》さんに目を付けられる話になっちまったよ……ナンテコッタイ
狩りのシーン?書かないですよ?だって長くなるじゃないですかー!作者時間ないんですよー!ごめんなさいねー!いや、マジですんませんっしたー!
実は最初の二割程度の内容も抜けてるんですよね……
下書き無くすなんて何ということでしょう……
まぁ、失った部分は割かしどうでもいいモノだったんで修復しませんでした
なんかおかしくね?と思ったら遠慮せず申し出てくださいね
お兄さんは自分で書いたもの読むの苦痛だから
次は正月の話か……(遠い目
今年の投稿はこれで終わりになると思うので言っておきましょう
皆様、良い御年を!
シーユーネクストイヤー!