108、眠いながら動く
「ただいまー」
【空間転移】で家の中には入らない
帰るときは扉からだろ?
出るときは気にしないけどな
「……おかえり、主」
メイド『おかえりなさい兄様!』
ソラとツバキが出迎えてくれた
「二人だけか?」
他の連中は……馬鹿やってんだろうなー
メイド『皆さん、忙しいみたいです』
ツバキが紅茶を入れてくれる
その手際は喫茶店のバイト(ミミル)とは比べ物にならない
メイド『どうぞ、兄様』
ニパァ、と笑って紅茶と茶菓子を出してくれる
その邪気のない顔が眩しすぎる……
腕と足折れているのを忘れちまいそうだ……
まぁ、痛覚遮断の魔法なかったら痛みで転がってるだろうけどな
痛みは消せても動きにくいのに変わりない
「ソラ、アンナのところにお客さんは連れていけたか?」
椅子に腰を掛け、ソラに聞く
客とは子供を拐っていったメイドと執事のことだ
「……客は魔女の家」
「そうか、早くお客さんの話を聞きたいぜ」
ショコラが死ぬ前、いや、酷い目に会う前に
誘拐は酷い目に含まれませんとも
「……たぶん、すぐ聞ける」
ソラがそう言うと狙っていたかのようにチャットに書き込みがあった
狂魔女『はーい!勇者君、集合よー!ハリーアップ!ハリーアップ!お菓子がなくなちゃうわよ!なくなったら悪戯されちゃうのね!?そうなのね!?勇者君は私の体目当てだから遅いのねー!』
黒勇者『ハロウィンはとっくの昔に終わってるぜー』
今日もテンション高いな程度で流した
シスタ『そ、そういうふしだらなことはいけないと思うっす!不潔っす!』
ここで反応するお前もどうかと思う
「ちょいと用事が出来た。ソラ、留守番頼む」
「……承知」
ソラが頷くのを見て俺は魔女の家に転移した
ツバキは一口だけ飲まれた紅茶と手つかずのクッキーを見てチャット機に書き込む
メイド『紅茶を残していくなんて兄様は余程急いでいるのですね』
本人は気付いていないだろうが雄樹は普段のらりくらりとしていて急用が出来ても紅茶を残して出掛けることなどなかった
「……ツバキは頭がいい」
ソラはお世辞にも上手いと言えない手つきでツバキの頭を撫でる
メイド『えへへ、嬉しいです!』
髪が乱れることよりソラに頭を撫でられることの嬉しさが勝ったようでツバキは今日一番の笑顔を浮かべた
そしてソラは仮面の下で遠い目をしていた
「……あそこまで主に心配されるショコラが少し羨ましい」
ツバキには聞こえないよう呟くのだった
「目が醒める薬くれ」
「来て早々何をトチ狂ったこと言ってるんだ?」
魔女の家に転移すると眠気が限界を迎えた
魔力は無限だけ使いすぎると眠くなるのが欠点だ
ゆらゆら動くアホ毛見てたら余計眠くなる
「眠い……」
自然と縋るような声が出て机に突っ伏す
「魔女にそれ聞かれたら何されるか分からないよ?」
眠すぎて頭が働かな……
「あら!こんなところに可愛い坊やがいるわー!食べていいのよね!勿論!性的に!」
「ハッ!邪気!?」
身の危険を感じて後ろに飛びずさる
「これほどぉ、便利なぁ目覚ましはありませんねぇ」
目覚ましだと?あの邪悪が目覚ましと言うのか!?
「雄樹、ここで気を抜くな。気を抜いたが最後――生きては帰れない」
流石、ベイル、伊達に魔女の相手をしていない、説得力が半端じゃねぇ
目が充血してて怖いよベイル
お前に何があったかが怖いよベイル
「あら?あなたったら私が勇者君を襲ったから妬いちゃったのね!?このツンデレさん!安心して二人まとめて養うくらいの甲斐性と性欲はあるわ!」
マズい、俺もターゲットに含まれている……!
「それよりぃ、本題に入りましょうかぁ」
「「本題?」」
俺とベイルは共通の敵から逃げるため協力して逃げようと扉に手をかけていた
「ユウ、ショコラを助けるんじゃなかったの」
アホ毛に呆れたように言われるの無性に腹立つな
「……そうだったな。生け捕りにしたであろうメイドと執事からは何か聞けたか?」
「まだだけど何か?」
魔女が即答する
「帰って寝るわ」
少しばかり落胆し踵を返そうとして
「落ち着きましょうよぉ。今からぁ、聞き出すところですからぁ」
ミュラーに肩を掴まれる
幼女に肩掴まれてるって俺の身長の低さぁ……
ミュラーに悪気はないんだろうが自分の身長の低さに落胆を感じなくもなくもなくもない
それがむしろいいって人もいたけどさ地味に気にしてるんだよ俺……
という訳で拷問室
……当たり前のようにあるな拷問室
速攻で逃げやがったメイドと執事が一体どんな目にあっているのか
拷問室に足を踏み入れて目に入ったものは
「こりゃ、ひでぇ……ひでぇかな……?」
真っ白に燃え尽きている半裸の執事と潤んだ目で熱っぽい息で床に転がっている半裸のメイドだった
……
「想像してたのとなんか違う」
なんとも言えない声が漏れる
だろ?と肩を竦めるアンナ達
「拷問してみたわ。性・的・に!」
体をくねらせドヤ顔をする魔女
執事の方燃え尽きてんだけど生きてんの?某ジョーさんみたいに真っ白になってるぜ?
怖い流石魔女怖い
「さて!子猫ちゃん、話を聞かせて頂戴?」
クイッとメイドの顎を掴む魔女
「はい、御姉様……」
わぁ、あの無表情だったメイドが御姉様だってー
……これ、なんて百合ゲー?
なんてエクセレントな光けゲフンゲフン落ち着け俺
「ふふ、ちゃんと言えたらご褒美よ」
目を細め妖しく微笑む魔女
背筋を冷たい風邪を撫でたような気がした
しかし、それを聞いたメイドは実に饒舌に言葉を吐き出した
狩るべき相手が少々大物だったが戦闘力ないと思うから問題ないな
ちなみに魔女の言う褒美とは危ない薬でした
別にエロい展開はなかったよ?本当だよ?
勇者、嘘、吐カナイネ
読んでいただきありがとうございます!
はいはーい!天の邪鬼でーす!
色々手遅れで未熟で怠惰な天の邪鬼でーす!
いやー、更新かなーぁり遅くなちゃたね
メンゴメンゴ
お兄さんはやる前から何事も諦めてるんだけどね
塾の講師に妥協するなと脅迫されちゃったーぁんだ
そーぉれで、お兄さんは柄でもない努力をしなくちゃーぁならないから更新が来年までないかもしれないから把握しておいてほしいな
勘違いしないでほしいんだけど、塾の講師に論破された訳じゃーぁないよ?
あくまでお兄さんはお兄さんのために動く
努力しないと本気で危ないことは自覚しているからねーぇ
怠惰なお兄さんが人生で初めて努力をするんだ大学合格してやるさ(フラグ
「君の望みは、君自身が動いて足掻いてもがいて、手にしたまえよ。悩み苦しんで惑い迷って、そうして得れば……満足はいかずとも、納得できずとも、決着は見れるだろうから」
」
by足掻くことを決めた天の邪鬼