106、暴食との遊び その四
雄樹は珍しく冷や汗を掻いていた
「化物キター……」
冷や汗を掻くなんて何時ぶりだろう?割りと最近だったかな
《暴食》の食への執念が国王との《約束》を破り彼を昔の姿へと戻した
彼の全身360度余すことなく《口》に覆われている
黒色の中にある白い歯はガチリガチリと噛み合い合唱する
聞く者に恐れを抱かせる評価最悪の合唱だ
白甲冑の腕は喰われたところを見ると全身が《口》によって守られてダメージは通らないだろう
「あれ、5秒で解除されんのか……?」
無理だろうな……と自問自答し、魔法を撃った
「【ファイア・バースト】【サンダー・ボルト】【ウィンド・サイズ】【シャイニング・レイン】」
上級魔法(目眩まし)を連発で
「これで倒される訳ないよな【ウォーター・スライサー】【ダーク・サーペント】【ブリザード・ランス】【グラウンド・ウォール】」
追加、ついでに岩の壁
「さて…………逃げるか」
攻撃の通らない相手をどう倒せと言うのか
別に化物を倒す必要はない
ちょっとでも無理を感じたら即撤退がモットーである
普通に逃げてもバレるだろうから適当な建物の屋上から走って逃げようと近くの建物の壁を走っていたら
「肉、喰う!逃がさ、ない!」
目眩ましを無視し、《暴食》が突っ込んできた
「危ねええええ!」
間一髪、壁を蹴って回避
《暴食》はそのまま建物にぶつかる
というか、すり抜けた
訳ではなく建物には綺麗に人の形の穴が空いていた
おぉ、と感嘆を上げているて二度目の突撃がきた
「シャレになんねぇよ【空間転移】」
雄樹は逃げた
恐らく《暴食》は鼻が効き、目眩ましは意味を持たなかったのだろうと推測しながら《強欲》がいる《狐の巣穴》に逃げた
座標をミスって《狐の巣穴》商品の上に落ちた
ちょっと焦ったからってこれは恥ずかしいな……
「ハロー。ボウヤ」
ケタケタと老人が笑いながら挨拶をしてくる
「今は夜中だぞジジイ」
起き上がり埃を払う
落ちてきたのが骨董品の上で助かったぜ
よく分からん液体の上なら皮膚が溶けるとかお約束なイベントが発生したかもしれんからな
え?お約束は服だって?現実的に考えろよ服だけ溶けるとかファンタジーなことがあるか?
「あ、ここ異世界だ。ファンタジーだ」
「独り言かい?壊れた商品は弁償してもらうよぉ?」
「それより、《暴食》の情報くれや」
「おやぁ?おやおや?まさか彼と殺り合ってるのかい?」
「見て分かれ」
てか、見てただろう?
気付いてただろう?
こいつ千里眼かなんかで路地裏の出来事は全部把握してる……と俺は予測してる
《強欲》は言われた通り俺の擦り傷だらけの体をつま先から頭の天辺まで見て神妙に頷き
「見たところ余裕はなさそうだねぇ」
カウンターからダサい服を取り出す《強欲》
俺に売る気じゃないよな?
ファッションセンス壊滅的と前の世界で定評がある俺ですらダサいと思った服を売る気じゃないよな?
「分かったら早く情報寄越せや。服は要らんぞ代わりはあるからな」
残念そうに謎の服をカウンターの下に戻す《強欲》
「焦らない焦らない。彼がここに来るまであと一分ってところかなぁ?」
ケタケタと意地悪く笑う老人
ふむ、こいつグルだな
ジジイから先に殺るか
「刻んで《暴食》に投げてみるか」
「早まらない早まらない。彼曰く小生は不味そうとのことだったよ?」
化物でも気味の悪い骨と皮ばかりのジジイは喰いたくないか
「殺されたくないから無料でヒントをあげよう。足の裏なら下級魔法でも通るんだ」
「足の裏にも《口》展開したら歩けないからか?ベタすぎんだろ……」
弱点分かっても動き止めて足裏に攻撃する方法がねぇよ
「それと一分だ」
ジジイの声を聞いた後、《狐の巣穴》の扉をスルリと文字通りに喰い破り《暴食》が俺に追い付いた
「一分、早くね?」
構えを取る
「やぁ、久しぶりだね豚君。小生のこと覚えているかい?」
《強欲》は《暴食》にフレンドリーに話しかける
豚君とか呼んでるけど仲が良いのか
「分かる、不味そう、肉」
こいつ凄く馬鹿なんだろうか?
どっちがって聞かれたらどっちもって答えるね
「肉扱いなんて酷いよぉ豚君」
ヨヨヨと下手な泣き真似をするジジイ
「豚、呼ぶ、お前、言える、こと、じゃない」
ツッコミ……だと……!?
「野郎、知性があったのか……!」
驚愕の真実、異世界では野生動物でもツッコミを入れる知能があるようだ
「ボウヤは真面目に人を貶すねぇ」
よせやい、褒めても短剣しか出ねぇぞ?
「喰う、……!」
ツッコミは言葉だけではなく物理も用いる
豚野郎は《強欲》に向かって突進を掛けているのだろう
決して、対角線上にいる俺を狙っている訳ではないだろう
喰うと言ったのは《強欲》に対してに違いない
《暴食》の突進を避けてジジイが死んでも俺は悪くないな
「ボウヤ、ボウヤ、か弱い小生を見捨てないでおくれ」
懇願するような声で、しかし口元には薄い笑いを湛えて《強欲》はすがり付く
「って、いつの間に足に絡み付いてんだよ!スリスリするな!キメええええ!」
あぁ、キモッ!そんなことしてる暇ねぇ!キモッ!《暴食》来てる来てる!
「仕方ねぇ!」
失敗したら腕一本くらい喰われるだろうな……
俺は《暴食》を打撃した
読んでいただきありがとうございます!
はいはーい!天の邪鬼でーす!
新たに小説を書こうと考えてる天の邪鬼でーす!
えぇ、学園モノが書きたいのです!
その上に卒業のかかった戦争が控えているので「たぶん勇者の日常」は二週間ほど書かないかもしれないのです!
まぁ、下書きで軽く五話分あるんで更新しない訳じゃないんですけどね
第六姫『結婚、憧れますわねー』
フラメル『そうですねー』
百合犬『私はいつでもウェルカムです』
黒勇者『そういえば同性婚ありだったか』
輝く男『俺は誰でも受け入れているさ』
黒勇者『キモい死ね』
輝く男『照れるな照れるな』
反乱者『結婚ですか……それほどいいものではありませんよ?私は最高の妻に出会えましたがそうではない者も多い』
約全員『黙れよ既婚者』
黒勇者『俺の母親と婆さんが言ってたことなんだが「結婚は妥協」だとよ』
反乱者『…………。』