正直者は愚行(バカ)を見る
「気楽な人生を歩みたい」
人生の堕落まっしぐらの友達で、飯山は煙草を吸いながらふすまにもたれかかってタバコを一服すると何の気もなくつぶやいた。
「は?何が言いたいんだよ?」
「いやね…人間言いたいことを言えたらどんなに楽なんだろうね~と思って」
「お前が言えない事なんてあるのかよ」
「あるよ…たくさん」
そう言って二本目の煙草に手をかける飯山に興味のない俺は次の雑誌に手を伸ばす。
「お前にも言えないことがあるんじゃない?」
その言葉にピタッと動きを止めるが、あるのは当たり前だと開き直るとクックとくぐもった笑いで飯山はまた煙草をふかし始める。
そこから言葉が無くなって数刻…たった数刻で雑誌の山が俺の横に出来て、飯山の横には煙草の潰れた箱が3箱も出来ていた。
「お前…吸いすぎだよ。肺がんになるぞ。」
「読みすぎだよ。主婦になるぞ。」
「どんな意味だよ?」
「ゴシップ並みの情報に右往左往する日本人ってことだよ」
「新聞だって読んでるぞ、ネットニュースだって見てちゃんと吟味してる」
「それが、日本人ってことだよ」
そう言って煙草に手をかけようとした飯山は取り出したライターの火が消えている事に小さく舌打ちをこぼした。
「あのさ…さっきの続きだけどよ」
「なんの?」
「ウソ…いや、言えない事か」
「お前のか?」
「いや、俺たちの」
「なんだよそれ」
そう言って3つ目の新聞に手にかける俺に飯山はゆっくりと話し出す。
「俺さ…誰かが人殺すの見ちまったんだよ」
その言葉に驚きで目を見開いて背筋がぞくっとした…飯山の言葉が妙にリアル過ぎてその続きに唾をのむ。
「夜の公園でさ……暗かったから形しか分かんなかったけど可愛い声の女の子を無理やり犯してたんだろうな、叫ぶ少女を押さえこんで黙れと叫んで犯して……多分そのまま拉致ってた。それを見ちまってからスッゲー怖いんだよな…その結果、いまだ誰にも言えてねぇ」
「へ…へぇ、でもなんで俺に言ったんだよ?」
「お前にだけは言いたかったんだよ…」
「そうかよ……あ、あのさ…俺も言えないことがあったんだよ。前、お前に見られてたんだけどさ……」
そう言ってもたれかかってた飯山をどかしてふすまを開けた。
「これ、どうしたらいいと思う?」
ふすまの中身に飯山の見開いた目に俺は心のつっかえが外れ優しい目をして飯山に伝える。
――あゝ、言えない事を言うのは気が楽だな…これでためらいが無くせる