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「出発は、明日?」
「うん。今日全部支度を済ませて、明日の朝行こう」
「ガキ二人で、何をしようって?」
頭上から聞こえてきた懐かしい声に目を瞬かせ(しばたかせ)、ユーとヴェントは顔を見合わせると揃って顔を上げた。そこには頭に描いた通りの人物が腕を組み、口の端を軽く上げてこちらを見ている。
「ジューメ!」
「あぁ! ジューメだ!」
ジューメが地面に降りてくると、二人は同時に抱きついて行った。ジューメはその勢いに思わずよろめくが、倒れそうになるのを何とか踏ん張り、苦々しく笑う。
「久しぶりだな、お前たち」
「本当だよ! 一年ぶりだ!」
「ジューメ全然来てくれないんだもん! 時々、洞窟に行ってみても、そんなときに限っていないしさ!」
目を輝かせながら言う二人の頭を荒々しく撫で、少し離れると再び腕を組んだ。表情はどこか難しいものになっており、ユーとヴェントもつられるよう、引き締める。
「……斑点の事で、話をしに来たんだ」
「斑点……!」
「まさか、ジューメも!」
「いや、オレには出ていないし、オレの知人も大丈夫だ。だが……集落の外で住んでいる奴らも、斑点のせいで何人か死んでいる。これも同じく、どこに聞いても原因不明だから性質の悪い病気だ」
ジューメが言うと、二人は深く頷いてしまった。そんな二人の肩に手を置き、顔を覗き込むよう腰を曲げる。
「龍のところに行くって話をしてたみたいだな。オレも行く、ガキ二人だけじゃ不安だしな?」
口の端を上げながらも、肩に置いていた手を引き寄せ、そのままユーとヴェントの頭を自身の肩に押し付けた。それに驚いて顔を上げる二人の頭をゆっくりと撫で、困ったように顔を背ける。
「なんだ……どう言えばいいか、わからねぇけど。お前たちの状況も、風の竜人の知り合いを通して、わかっているよ。……見ないでやるから、辛いときには我慢するな。お前たち子供が、そんな気丈になる必要、どこにもねぇんだからさ」
どこか照れくさそうに、ぶっきらぼうな言葉で、ジューメは言った。それにユーとヴェントの背は震え始め、それでもそれを堪えるよう、体が緊張する。
「辛いのを我慢するな、泣きたいのを我慢するな。……子供の特権だろ」
そう言って、頭を、体を優しく撫でてくれるジューメに。二人は甘えるようにして、声を上げた。
「ユー、どうしたんだい? 目が腫れているみたいだよ」
二人と別れて家に帰ると、局長さんが心配そうに声をかけてきた。ユーは目を擦り、緩々と首を振る。
「ううん、帰ってくるとき、目にちょっとゴミが入っちゃって」
「擦っちゃったのか、大丈夫かい? 目を洗っておいで」
無言でうなずき、ユーは手洗い場に向かった。鏡を見てみると充血した自分の顔が映り、弱々しく微笑むと顔を洗う。掛けてあるタオルを引っ張ると深く息を吐き出しながら、水気を取った。それから背後に感じる気配に、振り返ることなく口を開く。
「……局長さん、あの……」
「どうしたんだい?」
「……なんでもない。ね、ボクお腹すいちゃった!」
「いつも配達、ありがとう。ちょっと早いかもしれないけど、晩御飯にしようか」
先に歩いて行く局長さんの後を追うよう、ユーは手に持つタオルを握り締め、ゆっくりと歩き出した。
次回から3章に入ります。