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ヴェントの家にたどり着き、家の中に入ってみると、彼は呆然と天井を眺めていた。自分が入って来たことにも気づいていないようで、正面に回り、そっと手を肩に運ぶ。
「ヴェント」
虚ろだった瞳に光が戻り、焦点がユーに合った。見る間に表情が崩れていき、眉を寄せると、ユーにきつく抱きつく。
「父さんも……!」
たった一言だったが、ユーには何が起きているのか、判った。泣きじゃくるヴェントの背を撫で、顔を覗きこむ。頬を走る涙を拭ってやりながら、深呼吸をして口を開く。
「ヴェント、聞いて。リ・セントーレでも斑点が出ている人がいる。……局長さんにも、出たんだ」
お医者様から聞いたことを簡潔に話すと、ヴェントの顔色はますます悪くなった。机に突っ伏し、背を震わせる。
「どうしようもないの……! リ・セントーレのお医者様でもわからないんだったら、どうすればいいのさ!」
「落ち着いて、ヴェント。……ボクは少し、斑点について調べてみようと思うんだ。ほかの集落にも、広がっているかもしれない」
ヴェントは、顔を上げた。ユーは泣くこともなく、まっすぐと自分を見ている。しかしその手は見て判るほどに震えており、それを堪えようと強く拳を握っていた。
「話を聞いて、集めて、手がかりを探す。ボクは出来ることをしたい。……ヴェント、力を貸してくれない?」
思わず、自嘲的に笑ってしまった。それから乱暴に涙をぬぐい、立ち上がる。それを見たユーも、瞳の光を強くした。
「もちろんだよ! 今から行くの?」
「ううん、さすがにもう遅いからさ。明日の朝行こうと思ってるんだ」
「ボクは朝から、この集落を全部回るよ」
二人はうなずき合い、一度、握った拳をぶつけた。ユーはベッドに眠っているヴェントの両親に目をやり、首を振ると彼を見上げる。
「じゃあ、ボクは帰るよ」
「気を付けてね」
短く交わし、ユーは再び闇に姿を消した。
翌朝、ユーは普段より早い時間に手紙が入ったバッグを肩にかけ、局長さんの見送りのもと風の集落へ急いだ。
集落へ向かう途中、ヴェントがこちらに来ているのが見え、ユーは止まった。ヴェントもこちらに気が付いたのだろう、飛ぶ速さが少し低速になり、自分の前で止まる。
「ユー、風の集落は全部聞いて回ったよ。……残念だけど、斑点が出ていること以外、情報はなかった。ボクはこれから、雷の竜人のもとに行くよ」
「わかった。ボクは手紙を配りながら、聞いて回るね」
互いに、視線は鋭かった。それを交え、二人はその場を後にする。