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「……あなたも、ですか」
お医者様は局長さんの斑点を見るなり、一言そう言った。どこか疲れているような、諦めているようなため息をつきつつ、ペンを走らせてここでの会話を簡単にまとめている。
「も? と言うことは、ほかにも……?」
「えぇ。すでに、リ・セントーレだけで十件はありますね」
そう言うお医者様の顔色も、悪かった。ユーはうつむいたまま、膝の上で握った手を震わせ、手の甲を見つめる。
「まだ、原因は判っていません。……家で安静にして、無茶をなさらぬようしてください。とくに局長さん、ユー君がいるから大丈夫でしょうけど……配達など、して回らないように」
「わかりました。ありがとうございます」
局長さんは頭を下げ、ユーの手を握ると立ち上がった。ユーは不安そうに局長さんを見上げるが、見上げた表情はとても柔らかく、ユーと目を合わせるとその顔を更に優しいものにする。
「ユー、大丈夫だよ。だからそんなに心配そうな顔をしないでおくれ」
大きな、しわくちゃな手を頭に置かれ、ユーは思わず目を閉じた。局長さんがクスクスと笑う声が聞こえ、無意識に、繋いでいる手に力を込める。
「さ、帰ろうか」
「うん……」
胸に広がっている不安は、消えないままに。ユーは翼を広げると、局長さんと共に家へ向かうのだった。
夕食を済ませ、ユーは帽子を頭に乗せると玄関に向かった。翼を広げているユーに局長さんは首をかしげ、後に着いて行くように立ち上がる。
「どこに行くんだい?」
「ちょっと、ヴェントのところに!」
慌てるよう、短く答えると、地面を蹴りあげて夕闇に飛んだ。
リ・セントーレだけですでに、十件も斑点が出たと言ってお医者様の元に相談があっているのだ。それなのに、この国で一番技術が発達している「はず」のリ・セントーレでも、斑点の原因が判らないという。
何かが、可笑しい。治まらない胸騒ぎを抱えたまま、ユーはヴェントの元に急いだ。