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「てめぇ、死にたいみたいだな! ジューメ、アンス。ヴェントの治療を頼んだ!」
ユーは背後に展開している眼を更に巨大化させ、マトゥエを宙に放り投げた。ユーに吹き飛ばされ、岩に背から叩き付けられていたサーは激しく咳き込みながらも、口を歪めて笑う。
「ホーロウ、か。愚かな、マトゥエもクロウも、もとは私も使っていた。私も、使える技だ。そんなものに、やられると」
「はっ。てめぇが使える技を、てめぇに使うかよ」
姿を変えていくマトゥエを見て、ジューメは思わず体を緊張させていた。アンスもまた、表情を変えないまま目だけを丸くしていき、サー顔から血の気を失う。
ホーロウの時よりもはるかに巨体になっているそれは、姿もより醜悪になっていた。
背から放射状に六本伸びている突起物には、左右の目の大きさが違う人形が、串刺しにされている。それらは軋んだ音を響かせながら、被害者に顔を向けていき、ケタケタと笑った。
「エトランデ。哀れな男に、お前の抱擁を」
膝から、掌から、腕のいたるところから。そして喉の奥から、鋭く細い針が出て来た。それが徐々に赤みを帯び始め、サーはその場を離れようと血みどろの足に力を込める。
もがくサーを冷たく見据え、ユーが静かに腕を伸ばした。それに合わせエトランデが動き、迫りくる腕に奥歯を噛みしめる。
「くそっ……」
「なに、そう簡単に死なせはしねぇよ。……あんたが皆にやったこと、後悔させてやる」
逃げようとするサーの体を掌に乗せ、ユーは静かに、両手で彼を包み込んだ。その優しい動作とは裏腹に、エトランデは針で、サーの腹を、手足を貫いてく。
熱を持つ針のせいで傷口は焼かれ、血液が沸騰していく。もはやサーに、逃げる術はなかった。
「ウィユ、そこをどけ!」
ダリエスの鋭い声に、ユーは咄嗟にその手を開いた。サーが動けないほどに焼かれ、風穴まみれになっているのを目視するとエトランデをマトゥエに戻し、背後に展開したままの眼を、自身が開ける最大のものにする。
ダリエスが動き、ボロボロになっているサーの体を口でくわえ、ユーが展開している眼に向かいその体を放り投げた。
「貴様を鍵とし、再度扉を封じてくれる!」
サーの体が眼に張り付けにされると同時に、ダリエスは咆哮を上げた。その振動により岩は砕け、木々の葉が裂ける。その衝撃に、肌が切り裂かれんばかりの痛みが全身を襲った。それでもユーは、ただサーのことを見続ける。
「なぜだ……どうして!」
体が眼に溶けていき、融合していく。飲みこまれていく彼を見届けると、ユーは目を逸らすことなく眼を閉じた。それから長くうなだれ、ダリエスを見上げる。彼は瞳を柔らかく光らせると小さく頷き、そっと口を寄せる。
「我が愛する子、いや。ライトニアと私が愛する、ルシアルの者とオスキュリートの者の幼子よ。よく、やってくれた」
「いえ……。あ、ヴェント! ヴェントは!」
ユーはダリエスの傍を離れてヴェントの元に駆けより、倒れ込むようにして彼の隣に座った。ジューメに軟膏を塗ってもらっているヴェントは苦笑し、ユーの頭をなでる。
「大丈夫だよ! すっごく、痛かったけどね」
「クロウを受ける瞬間、かろうじて背を反らせたらしい。やつのクロウが砕けていたことも幸いだったな、そこまで傷は深くない」
ジューメの言葉に、ユーの涙腺は一気に崩壊した。ヴェントはそんな彼に目を丸くしながらも、優しく抱きしめる。
「大丈夫だって、ボクも、ちゃんとユー達と冒険してるんだもん」
「でも……だって、よかった、ヴェントぉ……」
「……別人ですねぇ」
と。
アンスはヴェントに泣きついているユーを見て思わずつぶやき、それを聞いたジューメとダリエスはふと顔を見合わせ、微笑むのだった。




