15-3
「ぐあっあああああ!」
サーは腹を押さえ、地面を転げまわった。腹部の眼が不安定な光を放ち、同時に黒い何かを放出する。
その瞬間。純白の翼を持つ金髪の女性が、眼から飛び出して来た。膝から地面に崩れ落ちていく彼女の体を、ユーは目を丸くしながらも支え、そっと地面に横たえる。冷たい手をきつく握りしめ、青白い頬に触れた。
「か、母さん……」
「ウィ、ゆ」
レガーは薄く目を開き、ユーの頬に手を伸ばした。彼女の息は細く、その表情にも血の気はない。
なぜ、サーの中から出ることが出来たのだろうか。コンダムをポスダーからは移封した時と同じようなことが、起きているのか。頭の片隅でそう思いながら、ユーはただ母親を抱きしめた。
「母さん、ボクは」
ユーが口を開こうとすると、レガーは静かに、人差し指を口元に持って行った。それから、近くに座り込んでいるヴェントに顔を向け、柔らかく微笑む。
「ウィユを、ありがとう」
誰の目から見ても。彼女の命は、長くはなかった。ユーも眉間一杯にシワを刻みながら、母を支える手に力を込め、歪んだ笑顔を無理やり浮かべる。
「ボク、友達が出来たよ、新しいお父さんもいるよ。……なにも、心配しないで」
「強く、生きて。ごめんなさい……」
レガーはそう言い、もう一度、ユーの頬を優しく撫でた。ユーはその手をきつく握り締めると、目を充血させながらも深くゆっくりと頷く。彼女はそれを見て安心したように、息を吐き出すと、目を閉じた。体からは力が抜けていき、彼女の重さを腕に感じながら地面に顔を向ける。
それでも。
唇から血が出るほどに強く噛みしめ、ユーは涙を流さなかった。喉を痙攣させながら、近くで短い呼吸を繰り返しているサーを睨みつける。彼は体をくの字に曲げ、地面に横たわり、だくだくと血が流れる腹部を両手で抱えてすすり泣いていた。その姿はどこか滑稽で、ユーは憐みを覚える。
そして、母の体をゆっくりと横たえると、立ち上がった。ヴェントを見つめ、ようやく周りを見渡していく。
村の人々は、サーの腹部の眼が潰された後に、その体を崩していたようだった。ジューメが浴びた返り血を拭いながらも、大剣を伝って行く血を丁寧に脱ぎ取り、仕舞っているのが見える。
彼らの表情にどこか安堵が見えたような気がして、ユーはわずかに、表情を緩めた。それもほんの少しの間で、すぐに引き締めるとサーの傍に歩いて行く。
「レガー……なぜだ、どうしてわかってくれない……」
ブツブツと呟いている彼を冷たく見下ろし、クロウを仕舞うと首を振った。
「母さんを最期に、あんたから解放できてよかったよ。あんたと一緒のままでいるのは、絶対にイヤだったろうからね」
淡々と言う彼を見上げ、サーは震えた。背を向け、再びレガーの元へ行こうとするユーに、瞳孔が小さくなっていく。
ヴェントはその表情に、憎しみを見た。音もなく立ち上がり、気配もないようにユーへと歩み寄っていく。
そしてその手には、砕かれたクロウの欠片が握られていた。
「ユー!」
跳ね上がり、ヴェントはユーの背を突き飛ばした。突然背を押されたユーは目を丸くしながら、上半身を捻り、更に目を見開いて行く。
飛び込んできたのは、ヴェントの背を、サーのクロウが裂いた瞬間。
「ヴェント!」
「このガキ、何度も、邪魔を!」
崩れ落ちるヴェントの体に、ユーは腕を伸ばすとしっかり体を支えた。右手で眼を展開しマトゥエの柄を握り締める、それと同時に躊躇いなく振り上げ、サーの体を吹き飛ばした。




