15-2
ヴェントがユーの元へ飛んだ時。ジューメも、大剣を振り回しながらも顔をユーとサーに向けていた。そして彼もまた、ユーの背後に女性がいるのを見ている。それはアンスにも、ダリエスにも見えていた。
「あ、あの女は?」
「おぉ……」
その、ユーを愛おしく抱きしめるようにしている女性を見て、ダリエスは薄く口を開いた。声が震え、穴が開くほどに女性を見つめている彼を見て、アンスは目を細める。
「ダリエスさん、あの方をご存じなのですか」
「ライトニアの力を感じる……ウィユの、母親だ」
その言葉に二人は目を丸くし、再びその女性を見た。彼女が姿を現した辺りから屍の動きは鈍くなっており、ジューメは近づいてくるものだけを、斬り伏せている。
「レガー、お前は呪力を使い果たしてでも……子を、守ろうと」
隻眼をきつく閉じ、頭を垂れるダリエスの目には、光るものが浮かんでいた。ジューメとアンスはただ、瞬きも忘れるようにして、ユーとサーの戦いを見ている。
その戦いを間近に見ているヴェントは息苦しさを覚え、ようやく自身が呼吸を止めていたことに気が付いた。オッドアイになったユーが繰り出すクロウは、腕を四本持つサーを圧倒し、彼を攻撃することに対する躊躇いは一切なくなっている。
反対に、サーの表情には怒りの他に戸惑いがあった。ユーのクロウをどうにかさばきながら、歯を食いしばっている。
「なぜだ、なぜ急に、ここまで力を上げた! そしてなぜ! 私の体が、いうことを、利かない!」
今度はサーが、ユーの攻撃を往なすことしか出来なくなっていた。目を血走らせ、ユーを睨みつけている。
ふと顔をあげた時、サーは、ようやく息子の背に妻の姿を見た。それに気が付いたのか、ユーを包み込んでいた彼女も顔を上げる。――目が合った瞬間に。サーは、背が震えたのが判った。
「レガー……」
――タダでは、死なない――
彼女の最期の言葉が、頭の中に、何度も木霊した。それと同時に、自分の体がうまく動かない理由、そしてユーの動きが急激によくなった理由を理解する。
(お前が、呪力を……自身の命を削り、この子に力を与えているのか。レガー!)
――世界に仇を成す者を倒すために。
自分の欲望のためだけに村を滅ぼし、国を魔界に売り、今もなお村人の安眠を妨げて苦しめている者を倒すために。絶対に、攻撃は止めない。
ユーはそれだけの思いを胸に、周りも見えないようにして、ただクロウを突き出していた。
サーが繰り出す腕を掻い潜り、突き出されるクロウを弾き返すと、喉元を狙って腕を突き出す。それを避けられても今度は胸元を、眉間を。どことなく、サーの動きが鈍く感じ、彼のクロウの軌道は解ったために攻撃は避けやすかった。
こちらが繰り出したクロウと、サーが突き出したクロウの切っ先が、衝突し合った。
そしてその力比べに勝ったのは。
「この、小僧!」
「これで終わりだ!」
サーのクロウを砕き、それに彼がひるんだ瞬間を見逃さず、ユーは体をグッと縮めると彼の懐に入り込んだ。そのまま彼の体を地面に押し倒し、クロウを振り上げる。
だが、倒れ込んでいるサーの口元に笑みが浮かび、ユーは思わず手を止めた。
「いいのかい、ウィユ。私を殺せばレガーも死ぬ」
サッと青ざめた彼に、サーは微笑みながらゆらりと体を起こした。両手を緩く開き、白い翼に優しく触れる。
「出来ないだろう? きみに、お母さんは殺せない。そうだろう? ウィユ」
クロウを振りかざしたまま、握っている手は震えていた。俯いている彼に、サーは砕かれたクロウの欠片へと静かに手を伸ばす。
「……腐った」
掠れていたが、耳に刺さるような声音だった。ユーはサーをにらみ上げ、振り上げている手に力を込める。
「腐ったお前の中で生き続けさせるよりも、ボクは今ここで、母さんを生き地獄から解放することを選ぶ!」
叫び、振り下ろしたクロウは、クロウの欠片に手を伸ばしていたサーの腹部に埋まった。――そこにはオスキュリートの血族の証である、眼が、刻まれている。




