15-1
ユーの叫び声に、ヴェントは息を飲むと顔を上げた。
自分が戦うことに、『肉』を切ることを『怯えて』いる間に。彼は翼を切り取られ、体は血に染まり、サーに体を押さえつけられていた。ボロボロになっているユーに向かい、サーはなおもクロウを振り上げている。
「ユー!」
「ヴェントさん、行ってください!」
アンスは鋭く言うと、自分たちの目の前にいる屍へ向け、引き金を引いた。それにより道が開け、ヴェントは即座に飛び出す。
怖がっている暇はなかった。今行かなければ、絶対に後悔するから。
「止めろ!」
ヴェントは風を起こし、サーがクロウを振り下ろした瞬間に彼のバランスを崩した。クロウはユーの頬をかすめる様にして地面に刺さり、サーはそれを抜くと、顔中にシワを刻むようにしてヴェントを睨みつける。
「この小僧!」
腹の底からの怒号が響いたかと思えば、サーは地面を蹴っていた。ユーはそれに気づき、落としていたクロウを震える手で引き寄せ、おぼつか無い足取りで立ち上がる。
「やめて……」
片翼を無くしているためか、自分がまっすぐに立てているのかどうか、どれがまっすぐなのか。それすらも判らなかった。前につんのめりながらも、ヴェントに向かうサーを止めるために、がむしゃらに地面を蹴る。
クロウを突き出したサーは、我が目を疑った。ヴェントもクロウを受け流そうと剣を構えた格好で、目を丸くしている。
(ありえない。ついさっきまで私の速さに、全くついてこられなかったこの子が……なぜ、私のクロウを受け止めている?)
「ヴェントに……みんなに、ボクの、友達に! 手を出すな!」
ユーはそのままサーのクロウを押し返し、肩を怒らせ、叫んだ。サーは彼の力によろめきながらも、息子を凝視する。
(ウィユは両目とも、黒い瞳だったはず。なのになぜ、左目が金色に?)
「そうか……レガー、お前の、光の竜人の血が。大天使の血もこの子に……」
「お前には絶対に負けない、お前みたいな勝手な奴には、絶対に負けられない!」
叫ぶユーの背に、ヴェントは女性の姿を見ていた。金色の短い髪を揺らし、ユーの左目と同じ、金色の瞳。そして純白の翼を持つ彼女は、サーのことを静かにねめつけていた。
「だけどボクは、一つだけあんたに感謝しないといけないね。……あんたが村を陥れなければ、ボクはヴェント達と会うことはなかった。きっと一生、村の外を知ることなく、あんたがやろうとしていることも知らずに生きていくことになったんだろうね」
ヴェントを背に、ユーはクロウを構える手を、ゆっくりと上げた。切っ先をサーに向けて目を細める。そこに宿る光は迷いなく、ギラギラとしていた。
「それでも、あんたがしたことは絶対に許せない」
ユーの後ろに立つヴェントは、目の前で起きている物理的にありえない現象に、目を丸くすることしか出来なかった。
切り取られた翼の付け根を女性が優しく撫でると、光に包まれ、翼が戻っていく。
そしてとうとう、元の通りに戻ったのだ。体に刻まれていた傷も癒えていっているのを、本人は気づいているのだろうか。
「勝手な欲望で村を滅ぼして、この国を魔界に売ろうとして。母さんを、ボクの遠い親戚を、傷つけたこと」
今まで、ユーに対しては優しい笑みを浮かべていたサーが、初めてわずかに表情を歪めた。クロウを持つ手に力が入り、目尻が痙攣する。
「絶対に許さない。ボクはもうあんたのことは父親だと思わないし、世界に仇を成す者として、全力で倒す」
言い切ったユーに、サーは顔に怒りをあらわにした。肩を震わせ、長く息を吐き出す。
「小僧が……やれるものならば、やってみろ!」




