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次の日、配達を終えてヴェントの元に行ってみると、彼は青ざめた顔で家から出てきた。それにユーは目を丸くし、顔色の悪い彼を支える。今にも泣きだしそうなその表情には、いつもの笑顔は欠片も残していなかった。
「ヴェント、どうしたの? なにがあったの?」
「母さんが……倒れた」
その言葉に、ユーは目を鋭くした。ヴェントは崩れ落ちるようにユーへ抱きつき、耳まで赤くなりながら震えている。
「母さんのホクロは、体中に出来てたんだ。腕だけじゃなかった、それなのに母さん、何も言わないで……!」
「ヴェント、落ち着いて」
ユーはヴェントの背をゆっくりと撫で、開け放たれたドアを見た。奥には彼の父親が見え、傍には、おそらく母親が横になっているのだろうベッドが見える。遠慮しながらも家の中に足を踏み入れ、ベッドを覗き込んだ。
「おばさん……」
体にかかる布団は上下に動き、触れてみた頬は暖かかった。それにユーは、思わず、ホッと息をついてしまう。
「やぁ、ユー君……。ヴェントが、お世話になっているね」
「おじさん、おばさんはいつから?」
深くうなだれて息を吐き出すと、彼は彼女の手をきつく握った。手の甲にも赤黒いホクロ……いや、斑点と言った方が正しいだろうそれが、広がっている。
「昨夜、突然倒れたんだ。ひどく苦しそうに胸を掻き毟ってね……もっと早くに、気が付いていれば……」
その斑点を見つめているうちに、ユーの顔からも、静かに血の気が引いていった。どうしてそれを見て、すぐに気が付かなかったのだろう。
昨夜、局長さんの首筋にみたものとこのホクロは、同じものだった。
「お、お医者様は……?」
「判らない……。見たことのない斑点だと言っているんだ。今、調べてもらっているよ」
ユーはうつむき、家の外で力なく座り込んでいるヴェントに視線を向けた。彼の傍まで歩くと手を貸し、優しく立たせて家の中に連れてくる。椅子に座らせながら、顔色を悪くしている友人の頭をそっとなでていると、ヴェントは弱々しく微笑みながらわずかに顔を上げた。
「いつもと、逆だね……」
「ヴェント、今日はもう帰るね。何か変わったことがあったら、すぐに教えて」
唇を震わせながら、ヴェントは小さく頷いた。それを見てユーはすぐに翼を広げると家に急ぐ。
玄関を勢いよく開くと、局長さんが驚いているのも構わないようにきつく抱きついていった。目を丸くしながらも局長さんはユーを抱きしめ返し、不思議そうに首をかしげる。
「ユー? どうしたんだい?」
「局長さん、お医者様のところに行こう! その首のホクロ……ううん、その斑点を見てもらおう!」
局長さんはただ、首をかしげるだけだった。それでも、ユーの必死な表情に、久しぶりに動かしていなかった翼を広げる。
「わかったよ。なら、近くのお医者様のところに行こうか」
ユーに手を引かれながら、局長さんは優しい笑みを浮かべ、家を出るのだった。