13-3
父と子が戦っている場所から離れ、ジューメやヴェントが剣を振るっている中、アンスはダリエスの傍に機器を置いて回っていた。魔界の住人に唸り声を漏らしている黒龍はそんなアンスを見て、怪訝そうに目を細める。
「マリアナの同胞よ、何をしている」
「あなたに何かあっては困りますので」
斬るように言い、アンスはダリエスの傍から離れた。手元にあるボタンを押し、ジッと、置いて行ったものを見つめる。
「ふ、む。一応成功としておきましょうか……まだ改良の余地はありそうです、が」
ダリエスとの間に、微かに映っている自分の姿を見て、アンスは口の端を上げていた。手にしている物の発射口を映る自身に向けて、指を乗せている引き金を引く。
「これも、成功品として良いでしょうね」
発射口から放たれた鉛の球が、ダリエスに届くことはなかった。出来栄えに満足がいったのだろう笑みを浮かべたまま、今度はダリエスに背を向ける。
「それは……?」
「過去の文献を読んでいる時に見つけた武器を、再現してみました。確か……じゅう、と書かれていましたね」
目を細め、今、ジューメと戦っている元は女の子だったのだろう屍に向けて、四度引き金を引いた。それは確実に屍の四肢を貫き、彼女はその場に崩れるようにして倒れる。
「ナイスサポートだ、アンス!」
倒れた屍に向かい、ジューメは大剣を振り下ろした。彼女はわずかに体を捻ってその斬撃を避けようとし、結果、腕を落とされる。
「痛いよぉお……!」
傷口からはドロリと黒い泥のような塊が落ちていき、目からは黒ずんだ紅い液体を流して悲鳴を上げた。その声に、ユーは顔をそちらに向ける。
「リーア……!」
「かわいそうに。お友達が、苦しんでいるよ? ウィユ」
ユーが見たのは、ジューメが大剣を屍に突き刺したところだった。断末魔の、かすれた悲鳴が鼓膜を突き刺し、クロウを手放すと耳を塞ぐ。
「イヤだ……やめて!」
「思い出したのかい? ウィユ。村が、滅んだ時のことを。友達が、村の人たちが焼かれた時のことを」
サーはクロウを捨て、地面に座り込んでいるユーの背後から彼を優しく抱きしめた。頬を走る涙をそっと拭い、頭をなでる。
「ほら、よく見てごらん? 村の人たちを苦しめているのは……あの三人だよ」
耳元で囁かれた言葉に、ユーは耳を塞ぐ手に力を込め、緩々と首を振った。それでもなおサーは、優しく語りかける。
「ウィユ……また、父さんと一緒に暮らそう。もちろんレガーも一緒だよ、そうすれば……村の人たちも一緒に、また、村で暮らせる」
「ほら、あの三人と別れて、父さんと一緒に来るだけでいいんだよ」
ヴェントは屍たちが振り上げる得物を往なしながら風を使い、二人の会話を聞いていた。どうやらこの世界でも風は自身の意に従ってくれるようだ。
サーの、優しく、残酷な言葉を耳にし。ヴェントは剣を振り回して一人距離を取ると、ユーを見た。
「ユー! 惑わされちゃダメ!」
頭を抱えるように泣いていたユーはハッと息をのみ、足元に落としていたクロウを拾い上げるとサーに向け振るった。彼は特に慌てる事もなく一歩下がってクロウを避け、ため息をつく。
「また、ボクをだましているんだろう! 魔界の住人!」
「そこの老いぼれ龍が、私がサー=オスキュリートであることを証明したじゃないか、ウィユ」
囁くように言われたそれに、ユーはきつく奥歯を噛みしめた。それから右手のクロウを足元に静かに置き、震えるほどに拳を握る。
それを、出来る限り強く、加減しないように自身の頬へ叩き付けた。衝撃によろめき、それでも足を踏ん張ると、目に冷たい光を宿しながらサーを睨む。
「ボクは絶対に、三人を見捨てたりしない。たとえお前が、本当にボクの父さんだとしても。……いや、父さんは、死んだんだ」
「……そうか、残念だ」
そう言うとサーは、グッと背を丸めた。今まで畳んでいた翼を開き、彼は全身に力を込め続ける。
肩甲骨の辺りから、二本の腕が突き出してきた。右腕は白い色を、左腕は黒い色をしている。腹部に描かれている眼が波打っているように見え、サーは誇らしげな笑みを浮かべていた。
そして四本目の腕が生え始めた頃に、彼の翼にも変化があった。――片翼が、純白の、光の竜人の長、大天使のものになっていたのだ。
「な……!」
「私はね、ウィユ。きみも……レガーも、愛しているんだよ」
サーはそう言うと、自身に生えている純白の翼を愛おしそうに見つめた。口角は緩やかに上がり、その表情は村にいた頃の父と変わりない。
「でも、魔界に仕えるには……どうしても歴史を受け継ぐ大天使の存在は、邪魔だった。だけど一緒にいたい、だからこうして本当の意味で、レガーと一緒になったんだ」




