1-3
「……ボクの勝ち!」
「いや、まぁ……勝てるとは、思ってなかったけどね?」
と、ヴェントは腕を組み、呆れたようにため息をついた。ユーは拳を高く突き上げながらも、白い目をするヴェントに苦笑する。
「いくらなんでも、海に飛び込むことはないんじゃない? 危ないなぁ」
ユーは、全身ずぶ濡れになっていた。海水が滴る(したたる)服を絞りながら、小さなくしゃみを漏らす。
「翼を広げようと思ったら、ちょっと間に合わなくって……」
「無茶するよ」
ヴェントは笑いながらもユーの服を絞るのを手伝い、ポーチの中からタオルを取り出すとユーにかぶせた。ユーも大きめのタオルをバッグの中から引っ張り出して、ヴェントのタオルで頭を拭く。その間に、ヴェントはユーの翼を丁寧に拭いていった。
「局長さんが大変そうだね」
「家ではちゃんと大人しくしてますー」
「解ってるよ。こんなにワンパクなのは、ボクといるときだけだって」
ヴェントが言うと、ユーは柔らかく微笑みながら彼に抱きついていき。まだ水分が取れきれないまま抱きつかれた方も、服を濡らしながら、楽しげな声を上げて頭を撫でるのだった。
ユーはそのまま、崖でヴェントと別れるとまっすぐに家に帰った。玄関を開けると、局長さんが目をパチクリとさせる。
「ユー? どこで遊んできたんだい?」
「アハハ……崖で遊んでて、海に突っ込んじゃった」
笑いながら言うユーに、局長さんも微笑んだ。それから部屋の奥に入ると大きめのタオルをユーにかぶせ、まだ濡れている彼の翼と頭を拭く。
「風邪を引くといけないから、お風呂を入れようか。少し時間がかかるだろうから、暖かい飲み物を淹れよう」
「はーい! ありがとう、局長さん」
と、顔をあげた時だった。局長さんの首筋に赤黒いものが見え、ユーは動きを止めた。それに局長さんは首をかしげ、ユーを見る。
「ユー、どうしたんだい?」
「あ……局長さん、これ……」
タオルを頭からかぶったまま翼を広げ、ユーはそのホクロにそっと触れた。局長さんもまた、ユーの手の上からそれに触れ、わずかに擦る。
「あぁ、このホクロかい? 最近出来たんだ」
「そ、か……」
そのホクロに触れた瞬間、なんとなく動悸が乱れ、手の甲が痙攣した気がした。それでもユーは表情を変えず、床に足をつけると翼を畳む。
「なにか、心配事?」
「う、ううん。なんでもないよ」
視線を泳がせながらも、ユーは首を振った。そんな彼に局長さんは再び首をかしげるも、炊事場へ向かう。
「さぁ、ユーがお風呂を出たら、夕食にしよう。今日はシチューを作っているよ」
「やったぁ! 局長さんのシチューはとってもおいしいから、大好き!」
満面の笑みを浮かべるユーに局長さんも嬉しそうに微笑み、暖かいミルクをユーに渡すと炊事場へ向かうのだった。