10-3
とうとうユーは手を滑らせ、マトゥエを手放してしまった。その隙に棒で腹を突かれ、地面に背から叩き付けられる。
「ねー、もっと遊んでよー!」
倒れるユーの顔を覗き込みながら、コンはムスッくれていた。ユーは歯を食いしばりながら、そんな彼をにらみ上げる。その表情を見てだろうか、コンは楽しそうに笑い、軽く地面を蹴ると翼を広げた。
「……強いね、えっと、ユー。でももっと強くなれるよね。その時にまた、遊ぼうよ!」
微笑むと周囲を見渡し、一人離れていたアンスへ近寄った。棒をしまうと彼の周りをゆっくりと飛び、首をかしげる。アンスは青ざめながらもその場を動かず、視線のみでコンを追っていた。肩はわずかに震え、上着がモゾリと動く。
「アンス……逃げろ……」
腕を痙攣させ、咳き込みながら唸るユーに、アンスは静かに首を振った。
「私一人で逃げることは、出来ませんね」
「んー……それにボク、きみとは遊べないかぁ。なんだか、潰しちゃいそう」
無邪気に笑いながら空に向かい、振り返った。ユーが憎らしげに見上げているのも、アンスが目を細め、脂汗を浮かべながら唇を震わせていることも気にせずに手を振っている。
「そうだ! 遊んでくれたお礼! ライトニアがいるところを教えてあげる……」
満面の笑みを浮かべているコンを見ながら。ユーはゆっくりと、闇に沈んでいった。
気が付くと、目の前にはアンスの顔があった。ジューメとヴェントも目を覚ましているようで、体を起こす。
「あいつ、強かった……」
「クッソ、まさか折られるなんてな……」
ヴェントは俯き、ジューメは大剣を見つめながら奥歯を噛みしめていた。そんな二人を見て、ユーは腹を抱えながらも、舌打ちをする。
「あいつ……全然本気じゃなかったよ。もしボクと同じ力を持っているんなら眼を開いてないし、全く息が乱れてなかった」
その言葉で、二人は更に肩を落としてしまった。アンスは眉を潜めながら目を伏せ、緩々と首を振る。
「ですが彼は……私が戦えないことが判ると、何もせずに行ってしまいました。光の龍、ライトニアさんがいるところも、お礼だと教えてくださいましたよ」
――表で言うと、ルシアルって人たちがいるところに、ライトニアはいるよ!――
「私は彼の言葉を信じていいと思います。……襲撃の理由は解りませんが、彼の目は嘘を言っているようではありませんでした」
ユーは深く息をつき、今度は腹部を撫でた。立ち上がり、軽く背伸びをすると、翼を広げる。
「ユー?」
「なんか、あいつに教えてもらったのは悔しいけど。せっかく情報が入ったんだ、行ってみても損はないよね」
背を向けていても、ユーの体が震え、拳を握っているのが判った。ヴェントは一度うつむくと立ち上がり、ジューメも、大剣を丁寧に布きれで包み込んで鞘にしまうと腰を上げる。
「そうだな……。たぶん、こっちの方向になるだろう」
「行こう」
突如突きつけられた謎の少年との戦い、敗北。戸惑いを覚えながらも、四人は進むほかなかったのだった。




