9-3
目を覚まし、自身が眠っていたのだと気が付いた。辺りを軽く見回し、近くに倒れているヴェントを起こす。彼は目を擦り、小さく欠伸をしながら背伸びをした。
「あ、ユー……」
「知らない間に、眠っちゃってたみたいだね。ジューメとアンスとは、はぐれちゃった」
見回す風景は、自分たちが元々いた表の世界とあまり変わらないようだった。しかし、何かに気づき、ユーは顔を引きつらせる。
「ここ、死んでる……」
「え? ユー、どういうこと? なんか草木が違うかな、とは思うけど……」
「草木もだけど、土も……息吹を、感じられない」
二人は顔を見合わせると、翼を広げて空高く飛びあがった。周囲一帯に動くものは確認できない。
「どうしよう、ジューメたち、別れて探す?」
「いや、なにが起こるかわからない。一緒に行こう」
ヴェントは頷き、ユーの手を握った。風に耳を澄ませてみるが、何も聞こえない。
「……風が声を運んでくれないのか、ジューメたちが何も話していないのか……」
「どちらにしろ、自力で探すしかないみたいだね」
そう言って苦笑し、空を翔るのだった。
ジューメはすぐに見つかった。森の中に巨大な火柱が立ち、それを目印に向かうと、彼が地面に座っていたのだ。二人は降り立つと、辺りを見る。
「あとは、アンスだね」
「あぁ、安心しろ。あそこだ」
彼の指先を視線で追ってみると、茂みが動いていた。二人そろって覗き込むと、落ちている木の枝や生えている草、花などをピンセットでつまみ、小瓶に入れ、何かの液体を掛けてその反応をメモしているアンスがいる。表情は普段と変わらないのだが、どことなく目が輝いているように見えた。
「……研究熱心だね」
「アンス、何かわかった?」
「そうですね。ここの植物は不思議です、私たちがいた世界と同じように緑色をしていますが、葉緑体がありません。ならばなぜ緑色をしているのか、栄養はどこから取っているのか。土を調べてみても生命維持に必要な量どころか、栄養素そのものが見つからない。ならばなぜ……」
「よーりょくたい?」
「うん、ごめん、まとめると?」
ユーは首を傾げ、ヴェントは引きつった笑みを浮かべながら頭を掻いた。アンスはわずかに眉を寄せ、ノートをしまうと振り返る。
「つまり、ここは私たちが住んでいる世界とは全く別の世界で、少なくとも自然界には生命が存在していないということです。栄養素が明らかにないのに、生命が維持できるわけがありません。元から生きていないと考えた方がいいでしょう」
キッパリと言うアンスに、三人は顔を見合わせた。
自然界に、生命が、ない?
「……変なところに、来ちまったな」
「ここが、裏の世界。ライトニアさんと、ダリエスさんがいるところ……」
「とりあえず、進もう。ラポートに、ライトニアさん達がいるところを聞けばよかったね」
生命がなくとも、地形事態は表の世界と大差ないようだった。少なくとも未知の世界ではないだろう。
「行くしかないだろうな、とりあえず……知り合いになるだろ、ライトニアを探すぞ」
「ねぇ! きみ達、ここの人? 違うよね!」
突如聞こえた幼い声に、ユー達はその姿を捜した。あまりに不意な声だったため、どの方向から聞こえたのか、判らない。
「えへへ、ここだよ、ここ!」
「……上か!」
顔を上げると、宙に一人の男の子が飛んでいた。その子の姿に、三人は思わずユーへ視線を注ぐ。
彼の姿はユーに瓜二つで、手に付けている手袋の甲に、眼まであった。違うところは髪の色だけだが、それも、ユーの髪の色が抜けていなければ二人の見分けはつかなかっただろう。
その子は漆黒の髪を揺らしながら無邪気に笑い、ユーの目の前に降りてきた。グッと顔を近づけ、満面の笑みを浮かべる。
「きみ、強い?」
「……え?」
呆然としていると、男の子はユーの右手を掴み、甲を見た。手袋越しに優しく触れ、顔を上げるとユーの瞳を覗き込む。
「やっぱり! オスキュリートの人だ、ねえねえ、遊ぼう!」
「き、きみは誰なの! 竜人じゃないよね!」
声を荒げたユーに、他の三人は男の子を警戒した。それを見ながらもその子は楽しそうに笑い、少し離れる。
「ボク? ボクの名前はコン! ね、ね。ボクと遊ぼうよ!」
笑みを浮かべたまま、コンは軽く右手を握った。掌が光り、それは形を成して長い棒になる。その得物は恐らく、コンの背丈の二倍ほどはあるだろう。
コンが武器を構えたのを見て、ユーも眼を展開させるとマトゥエを握った。
「わぁ、それがきみの武器? かっこいいね!」
「うるせぇな……来いよ、遊んでほしいんだろ!」
不敵に微笑んでいるコンに向かい。ユーは、まっすぐに足を踏み出した。




