9-2
以前コンダムと戦った場所、大天使の部屋には、一人の女性がいた。彼女はコンダムの物だった杖を手にしており、背の純白の翼を緩く開きながら椅子から立ち上がる。
「お待ちしておりました」
「きみが、コンダムの次の代の、大天使だよね」
「はい。ラポートと申します。……ウィユ、あなたには、謝っても謝りきれません」
台座を降りてくるとユーの前に立ち、ラポートは深く頭を下げた。そんな彼女にユーはきつく眉を寄せ、軽くため息をつくと頭を上げさせる。
「きみ達がいくら謝っても、村も両親も戻って来ないよ。それにきみ達が悪いわけじゃない、魔界の住人のせいだって言うのは解ってる。だから、止めて」
言われ、ラポートは顔を上げるも、目を伏せたまま視線を合わせようとはしなかった。どうしたものかと考え、彼女の頬を、両手の人差し指で突く。さすがに驚いたのだろうラポートは視線を上げ、ユーをまっすぐに見つめた。
「ボクが言ったこと、聞いてた?」
「え……」
「ボクはきみ達を恨んだりしてない、もちろんコンダムの事も。だからそんな顔をしないで、ちゃんとボクと向き合って。……ボクもきみ達と同じ、隠れ里の一族なんだから」
そう言って手を離すと、ラポートはますます俯いてしまった。だが一度深呼吸をすると体を起こし、先ほどの弱々しい表情とは変わって大天使らしい凛とした顔をする。
「……ボク達は斑点のことを調べている。ブリストさん、サドリアさん、マリアナさん、ソーリスさんに訊ねてみたけど、何もわからなかった。……力を貸してほしい」
「解りました。あなた方を、裏の世界へ送ります」
「裏の世界? 私はこれまで、様々な分野の文献や資料を集め、目を通してきました。ですがそのような……世界は、聞いたことがありません」
ラポートの言葉に、アンスはすぐに眉を寄せた。彼女は微笑むと杖を軽く握り、アンスへ体を向ける。
「文献は、残っていません。……私たち光の竜人と闇の竜人は、本来ならば世界に知られることのない一族なのです。眼は、闇の竜人の、オスキュリートの血族が。伝承は我々が守っていく、はずでした。……前代大天使、コンダムにより、あのようなことになってしまいましたが……」
「光の龍が、ライトニアさんがこちらに来たこと?」
ユーが問うと、再び静かに頷く。そのまま俯いてしまったラポートに短いため息を吐き出すと、自身の両の手の甲を彼女に見せた。
「大天使ラポート、……この世界に、闇の者が。魔界の住人が現れたんだ、今回のことも、これが関係している可能性が高い」
「えぇ、時間もあまり、残されてはいないようですね……。兵士に調べてもらいました、今からあなた方を連れて行きます。目を閉じて、何も考えないで」
そう言われ、目を閉じようとしたとき、ラポートが微かに目を見開いたのが見えた。首をかしげると、優しく、どこか寂しそうに微笑む。
「ごめんなさい……あなた方に、オスキュリートに、頼るしかなくて……」
「ううん、きみ達が文献を守るなら、ボクは扉を守る。眼の継承者として、戦うだけだよ」
と、ユーは目を閉じた。ラポートは杖を掲げると、自身もゆるく目を閉じる。
「こちらの世界、表の世界と、あちらの世界……裏の世界では時の流れが違います。こちらの世界はあちらの世界よりも、流れが遅い。……世界の異変を、あなた方に委ねます」
その言葉を最後に、ユー達は瞼の向こうで何かが光るのが判り、暖かいものに溶け込んでいくのを感じていた。それは足先から徐々に広がっていき、全身を包んでいく。
そして、杖の宝石から出ていた光が治まると。その場から、ユー達の姿は消えているのだった。




