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「ヴェント―!」
「ユー! 今日は早いね!」
各集落に配達を終え、最後に風の竜人の集落での配達を終えると、迷うことなくヴェントの家に向かった。ユーの声にヴェントはすぐに家を飛び出し、翼を広げる。
「今日はどうする?」
「ボク、久しぶりに急降下したい! ヴェント、ゴーグル貸してよ!」
「よーし!」
ヴェントは腰に下げるポーチの中から同じゴーグルを二つ取りだし、一つをユーに放った。それを片手で受け取ると頭に乗せ、自身の隣に並びながらもう片方をつけているヴェントへ顔を向ける。
「じゃあ、行こうか」
「ヴェント! あんまり遅くなるんじゃないよ!」
「わ、わかってるよー!」
飛ぼうとした瞬間、家から出てきて声を張り上げるように言う母親に苦笑しつつ。ヴェントは片手を上げてそれに応え、先を飛ぶユーの後に続くのだった。
「……ねぇ、ヴェント。きみのお母さん、ホクロが増えてない?」
崖にたどり着き、ユーはバッグの中から木の実を出すと、それをヴェントに渡した。二人は崖の縁に腰をおろし、波打つ海を眺めながらかじっていた。
「それに、だんだん大きくなってる気がする」
言いながら眉を寄せるユーに、ヴェントも同じように眉を寄せた。
「そうなんだ……一年前から、だんだん増えていってる」
うつむき、目を伏せながら、ヴェントはどこか不安そうな顔をしていた。
一年前、家に帰った時。叱りながらもきつく抱きしめてきた腕には、見覚えのない赤黒いホクロがあった。その時は、自分が家を空けている間に出来たものだろうと、気にも留めずにいた。
しかし、そのホクロは日ごとに肥大化し、新たに出てくるのだ。
「心配だから、集落のお医者様に診てもらえって言うんだけど……。当の本人が何ともないからって、行こうとしないんだ。まぁ、昔っからお医者様に行くのは嫌いな人なんだけどさ、寝てれば治るって言って」
ユーは眉を寄せたまま、食べ終えた木の実の残骸を適当に放り投げ、腕を組んだ。
「……なんとなく、あのホクロ、いやだな」
「よしてよ……。ユーが言うと、本当にイヤなものに聞こえちゃう」
ヴェントはそう言って笑いながら、同じように木の実を放った。
ユーは彼のその笑顔が、普段に比べて硬く引きつっていることに、気が付いた。それはよく観察していないと判らない程度だが、これ以上イタズラに、彼を不安にさせたくはない。
「そうだね……。じゃ、遊ぼうか!」
「どっちが、海面の近くまで翼を畳んでいられるか! ……へへへ、度胸比べだ!」
「負けないよ、ヴェント」
二人は立ち上がり、ゴーグルを目元に下ろすと、そろって崖から下を覗き込んだ。