7-3
前回の旅で。
兜を被ってマントを羽織ったそれの中身は、白い煙だった。しかし今回、ユーが体を裂いたときに見えたのは、黒くドロドロとした物体。ジューメ命名「ドロドロザコ」。
ユーが体を引き裂いて動きを止め、ヴェントが風を使い一まとめにし、ジューメの炎で焼き溶かす。そのような作業がすでに、十を超すほどに行われていた。
「ねぇ! どれくらいいると思う!」
「さぁね! しかもドロドロだから、斬ってもダメ、風もダメ! ジューメの炎しか効いてないみたいじゃない!」
クロウについたドロドロを振り払い、再び斬りかかった。数は確実に減っているようなのだが、それでもまだ、数えるのが面倒な程度は残っている。
「なんでこいつらが、魔界の住人がどうして……」
「みなさん、こちらへ」
ずっと帽子の中身を弄っていたアンスが、静かな声で手招きをしていた。ユーは即座にそちらへ走り、ヴェントもそれに続く。
だが、ジューメは一人、炎を繰り出してザコの足止めをしていた。
「ジューメさん、早く!」
「何をするか知らねぇが、やれ!」
ジューメの気迫に、アンスはひるんだ。視線を自身が持っている機械に落とし、躊躇いながらもそれを弄る。
先ほどまでユーやヴェントがいた辺りの地面が吹き飛び、広範囲で火柱が上がった。ザコはそれに飲まれ、同様に、足止めをしていたジューメも炎に飲まれている。
「ジューメ!」
「アンス、何で押しちゃったの!」
ユーとヴェントが焦るも、アンスはただ、爆発が起きたところを見ているだけだった。ヴェントも炎を見ており、その中でゆらりと動いた影を、息をのみながら指さす。
「ジューメ! だ、大丈夫?」
「あー、おう。一応炎の竜人だしな」
乾いた咳を零し、大剣を肩に担ぎながら炎の中から歩いてきた。アンスを見て口の端を上げると頭に手を置き、グシャリと撫でる。
「すげぇ火力の爆発だったじゃないか。おかげで、一掃できたぜ」
アンスはジューメを見上げ、視線を逸らし、手に持つ機械を帽子にしまった。ジューメが手をどかすと乗せる。
「いえ、別に……。あいつらは一体、何者なのです」
「……魔界の住人だよ」
ユーの右手の眼が、光っていた。それを細い目でにらみ、舌打ちをする。
「イヤな予感しかないね。早くソーリスさんの元に行こう」
「そのことなんだが。……オレは行かねぇ、お前らだけで行け」
背の鞘に大剣をしまいながら言い、腕を組んだ。そんなジューメの言葉にユーとヴェントは目を丸くする。
「え? なんで?」
「なんででも、だ。さっきはお前の声で、綺麗に消されたからな」
ジトリとヴェントを見ると、ジューメはため息をついた。ヴェントは苦い表情で頬を掻いているが、ユーは眉を寄せながらジューメに寄る。
「なんでー!」
「……さっきアンスが言っただろ。ヘルズ火山は、炎の竜人の集落付近にあるって。オレはあの集落には何があっても行かない、近づきたくもない。だから行かない」
ジューメの口調は強く、硬いものだった。表情からは憎しみか怒りか判らない感情が読み取れる、そんな彼を説得できるとは、欠片も思えなかった。
「判ったよ……。じゃあどこかで合流しよう」
「ヴェント、終わったら風で連絡をよこせよ。出来るだろ」
当然だ、と言わんばかりの言葉に、ヴェントは思わず押し黙った。しばらく考えるも静かにうなずき、ユーを見る。
「風に、声を運んでもらえるんだもん。連絡も取れると思うよ、行こう」
「アンスには行きながら、あいつらの説明をするね」
と、ユーは先に翼を広げた。ジューメもその場を飛び立ち、アンスも翼を広げる。
「あ、そうそう」
地面を踏み込もうとした足を止め、ヴェントを振り返った。ヴェントはあからさまに不機嫌な表情を浮かべるが、アンスは小さく笑う。
「個人的な見解ですが、悲しんでいるよりも怒っていた方が楽だと思いますよ、先ほどよりも表情が良い」
「え?」
それだけ言うと、今度こそユーを追って飛び立った。残ったヴェントは目を丸くし、苦々しく微笑んで頭を掻くと、二人を追いかけるのだった。




