7-1
無事に浜へあがることができ、水の竜人の集落にたどり着いたときには、太陽はすでに山の向こうへ隠れてしまっていた。その日は再びアンスの家で休ませてもらい、体を伸ばす。ずっと潜水艇の中にいたせいか、体の節々が悲鳴を上げているようだ。
ジューメは床に片膝を立て、座って眠り、ヴェントはイスに腰を掛けテーブルに突っ伏すよう眠った。アンスは机に向かい、蝋燭の明かりで何かを書き進め、ユーはソファの上に丸くなって寝息をたてる。
ユーは今、自身が夢の中にいるのだと、ぼんやりと理解していた。周囲を見てみると、どうやら故郷の空き地にいることがわかり、記憶を頼りに家へ向かう。
玄関から中に入ると顔に影がかかった。視線を上げると、母が立っている。夢であると解っていても、ユーは思わず抱き着いてしまった。
「お母さん! ボク、ボクね」
――集落の外に、友達が出来たんだ――
そう続けようとして、母の口が動いていることに気が付いた。しかし、そこに声はない。
「お母さん、なに? 聞こえない……」
「ユー! 起きろー!」
鼓膜を通して頭に突き抜けて来たのは、母の声ではなくヴェントの声だった。思わず飛び起き、その表紙にバランスを崩してソファから落ちてしまう。
「いってて……」
「あらら……。ユー、大丈夫?」
頭を擦り、心配そうにのぞき込んでくるヴェントを見上げた。
「……母さんの夢を見た」
「あ。ごめん、まだ起こさない方がよかった?」
「ううん、平気」
と、ヴェントに手を貸してもらいながら立ち上がった。ジューメはすでに大剣を背負って壁に寄りかかるよう立っており、アンスは何か機械を弄っている。
「アンス?」
「……ついて来るんだって」
深く息を吐き出し、肩を落としているヴェントに苦笑を漏らすと、ユーはアンスを心配そうに見た。眉を潜め、小さく唸る。
「アンス、危ないよ? ついて来るのは、止めておいた方が」
「こんな。こんっ……な。面白い研究材料を集められそうな旅に、未知の領域に踏み入れられそうな旅に同行をするな、と! ふん、ならばこのまま斑点により朽ちた方がマシです」
体を震わせ、拳を握りながら言うと、アンスは潜水艇を例の箱の中に入れて机の上を簡単に整理した。脇に置いてある道具を袋の中に詰め込み、口を縛る。
棚にある文献を並べ直し、最後にノートとペンを上着にしまうと、荷物を纏めて帽子の中に入れてしまった。潜水艇を入れている箱と同じような仕掛けになっているのだろうか、彼は何の苦もなさそうに、帽子を頭に乗せる。
「そう言えば、お名前を伺っておりませんでした」
……そう言えば。
三人の思いは同じだったと思う。アンスに会ってからずっと、彼のペースに流されていたので、すっかり忘れていたのだ。
ユーは苦々しく笑い、小さく頷くと今度は満面の笑みを浮かべた。右手を、アンスに差し出す。
「じゃあ、ちょっと遅くなったけど自己紹介! ボクの名前はウィユ=オスキュリート。ユーって呼んでね!」
「ボクはヴェント=ラミティ」
「ジューメ=エンファーだ」
三本伸ばされている手をしばらく見つめ、アンスはゆっくりと自身の手を上げると、乗せるように彼らの手に触れた。
「アンス=インヴェンターです。よろしく」




