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すると、パネル越しに、マリアナが瞼を震わせたのが判った。
「世界に、異変が起きている、と?」
「そうでしょう。実際、深海を縄張りとする生き物が、浜に打ち上げられていることが増えています。そして生物として調べられるところ全てを検査し、何の異常も見られないのにこうして人々が斑点に侵され、死んでいく。異変と言わずなんと言いましょうか」
「……ライトニアは何をしている。ダリエスに何か……」
「ライトニア、ダリエス? それは、誰なんですか」
その言葉に三人が首を傾げ、ユーが目を丸くしてしまった。マリアナも軽く目を開き、覗き込むようにして潜水艇の小窓を見る。
「私からはお前たちの姿は、よく見えません。ですが……そこに、オスキュリートの者がいますね」
「はい! ボクがそうです。名は、ウィユ=オスキュリート。一族が滅んでしまったため、最後の眼の継承者です」
そう言うとマリアナはますます目を丸くし、ユーが簡単に、魔界の者に滅ぼされた旨を説明すると目つきを柔らかくした。手をそっと潜水艇にかざし、ユラユラと動かす様は幼子の頭を撫でているかのようだった。
「そうか……。大変だったでしょう」
「今更、どうしようもないです。それで、えっと」
「あぁ、ライトニアと言うのは光の龍の名で、ダリエスは闇の龍の名です。ごめんなさい、私には異変の原因がわからない」
と、深く頭を下げた。
「ここまで来られたあなた方ならソーリスの元へも行けるでしょう。そこで何もわからなければ……ライトニアを訪ねればいい、行く方法は恐らく、光の竜人たちならば知っているでしょう」
マリアナの言葉にユーは眉を潜め、小さくため息をつくと右手で頭を押さえた。軽くうつむく表情はどこか、複雑だった。
「ルシアルを……。わかりました、ありがとうございます」
「ユー、大丈夫?」
弱々しく微笑むユーに、ヴェントは彼の背後から優しく抱きしめた。ジューメも苦い表情をし、アンスはそれを静かに見つめる。
「このようなところまで来たのに……力になれず、ごめんなさい」
「いいえ、その……ありがとうございました」
不意にマリアナが腕を広げ、小さな潜水艇を両手で包み込んだ。アンスはそれに慌て、パネルに目を向け機械を叩く。
「な、なんですか! なにをするのです!」
「ここまで来るのは大変だったでしょう。せめて、漸深層まで連れて行きます」
「こ、ここから三千メートルも上昇しようと! それではあなたに負担が……」
「心配はいりませんよ、そちらは……何かすることはありますか」
「い、いえ……」
パネルには、マリアナの手の隙間から辛うじて深海魚が映し出されており、アンスはどこか不安そうに船体を見回す。潜水艇の持ち主である彼がそんな表情をしているせいか、つられて他の三人も落ち着きなく周囲を見ていた。
不意に潜水艇の小窓が広くなり、各々は深いため息をついた。パネルを見るとマリアナが潜水艇から距離を取り、微笑んでいる。
「私が連れてこられるのは、ここまでです」
「ありがとうございます、マリアナさん
「健闘を祈ります」
言い残し、マリアナは海底に向かい姿を消していった。それを見たアンスもペンとノートを取りだし、目をキラリと光らせる。
「なるほど、この潜水艇もそうですが強靭な鱗に全身を包まれているおかげで、このように水深の差が激しい所でも水圧に影響されず……となれば、炎の竜人さんの鱗は……」
「な、あ。とりあえず……地上に向かわないか?
ジューメの、珍しく遠慮がちな声に、同時に首を縦に振るユーとヴェントだった。




