5-3
遅くなりました。
「いっでぇえ!」
ジューメの尾の鱗を一枚、躊躇いなく剥がした。あまりに不意の出来事だったためかジューメは短く叫ぶとアンスに向けて拳を固め、ユーが慌ててそれを止める。アンスは何事もなかったかのように机に向かい、鱗を顕微鏡でのぞき始めた。
「なにしやがる、このガキ!」
ジューメの怒号で、部屋の空気が震えた。それにも関わらずアンスは口の端を軽く上げ、机の中から小ぶりの木槌を取り出すと、机の上に置いている鱗に向け思い切り叩き付ける。
机が壊れるのではなかろうかという勢いに、三人はポカンと口を開けた。
「なに、してるの」
「……興味深いですね」
そう言って次に取り出したのは、鉄で来た杭のようなものだった。アンスは鱗を机の上に固定すると、杭を鱗に垂直に立て、先ほどと同じように木槌で打ち付ける。
それでも全く傷つくことのない鱗を、鱗の持ち主は当然のように見ているが、ユーとヴェントは顔を見合わせた。
「ユー、マトゥエで叩き付けてみたら?」
「えー?」
「より、強い力でこれに衝撃を与えられますか。……あなた方の目的に近づけますが」
そう言われると、ユーは肩を落としてため息をつき、眉を寄せながらもアンスの手から鱗を受け取った。
「これは無理じゃないかなぁ……」
と、アンスの家から外に出て、翼を広げた。ヴェントとジューメもそれを追い、アンスも小柄な翼を広げると三人を追って飛ぶ。
「どちらに?」
「さすがに、あれは集落の中では見せられないからね。……アンスもこれには、興味を持たないでほしいな。調べようと思ってもダメだ」
集落の外に出ると近くの石の上に鱗を置き、ユーは眼を展開した。中からマトゥエを取りだし、両手で持つと鱗に狙いを定める。
「ジューメ、ヴェント。アンスを連れてちょっと離れてろ、石が砕けて飛び散るぞ」
「あぶねぇな」
と、二人は興味津々でマトゥエと展開されている眼を見つめているアンスを連れ、ハンマーの範囲外に立った。ユーはそれを確認すると空に飛びあがり、マトゥエを振りかざす。
全体重をそれに乗せ、重力を利用するように力を込めると、鱗を乗せた石にマトゥエの面を思い切り叩き付けた。石は粉々になって辺りに飛び散り、木の幹に食い込んだり地面に埋まったりしている。離れていた三人の元にも凶器は飛んでいたのだろう、ジューメが薄く炎の壁を立てていた。
砂埃が治まる頃、アンスは鱗があった場所に近寄り、何かを拾い上げた。手の中にある真紅の物体にユーは目を見開き、眼を閉じる。
「すごい……。手加減、したつもりはないんだけど……」
彼の鱗はそのままの形で、手の上にあった。アンスは喉の奥で低く笑い、鱗を愛おしそうに眺めながらそっと指の腹で撫でる。
「よほど強く、伝説の龍の血を引いたのでしょうね……。まるで、龍そのもののように」
と、翼を開き、集落へ向かって行った。三人は慌てるようにそれを追い、アンスに続いて彼の家に入る。すると彼はすでに机に向かっており、顕微鏡を覗き込みながら鱗を様々な道具を使って弄り、突き、挟み。一心不乱に何かを書いていた。




