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「じゃあ、局長さん。行ってきます!」
「あぁ、気を付けて。帰りはまた、風の竜人のところへ、寄ってくるのかい?」
局長さんが言うと、銀髪の少年……ユーはチロリと舌をだし、うなずいた。局長さんはそれに柔らかく微笑むと、ユーが肩から下げているバッグに木の実を二つ、入れる。
「あんまり、遅くならないようにするんだよ。あと、迷惑を掛けないように」
「はーい! 行ってきます!」
と、ユーは手紙がたくさん入ったバッグを再度抱えなおし、空へ向けて地面を蹴った。
あの冒険から、約一年が経っていた。
ユーは一年前の冒険の後、一度だけ、一人でこっそりとルシアルの集落に足を運んでいた。相変わらずあの集落の中に入ろうとすると、むにゅん、とした壁を通り抜ける感覚が残っているが、自身の中にもルシアルの血……元大天使レガーの血が流れているためか、すんなりと入ることが出来たのを覚えている。
大天使コンダムが亡くなった後は白い翼を持った女性が大天使となっており、平和にやっているのを見てなんとなく胸をなで下ろした。
ユーは相変わらず国中に手紙を届けており、唯一大きく変わったことと言えば、局長さんと暮らし始めたということ。
当時はルシアルの者に追われているという意識があったために、何度局長さんから一緒に暮らそうと誘われても、頑なに断り続けていた。
それにも拘らず(かかわらず)、一年前の冒険が終わってリ・セントーレへ帰った時。局長さんは涙を流し、自分が帰ってきたことを、喜んでくれた。その後再び、今度は自分の養子として一緒に暮らすことを提案したのだ。その時のユーに、それを断る理由は、なくなっていた。
一年経った今でも、ヴェントとユーは一緒に遊んでいる。今となってはどちらかが欠けていると、ケンカでもしたのかと不思議がられるほどだ。
また、ヴェントは元々、風を使えない風の竜人だった。だがそれを旅の途中で克服しており、家に帰って自在に使った時には両親に心底驚かれたという。ユーはそれを聞いて、楽しげに笑ったのだった。