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竜の国 ~異変~  作者: 夢野 幸
第五章 カノウセイ
18/54

5-1

 水の竜人の集落にたどり着いたのは、空に星が瞬く(またたく)時間だった。ユーはジューメを見上げ、眉を寄せる。

「どうしよう? ラマーさん、起きてるかなぁ?」

「寝てたら叩き起こせばいい話だろ」

「いやいや、さすがにそれは不味いんじゃないかな」

「長様なら、先日倒れましたよ」

 背後から聞こえた、幼い、それでもはっきりとした声に、ユーは顔を上げると振り返った。

「あ、アンス!」

「……おや、あなたは配達屋さん」

 そこに、壺のような形をした帽子を被る、どこか冷めた目をした少年がいた。ユーよりも年下だろう彼は視線のみを上げて三人を見つめ、数歩近づいてくる。

「たとえ長様が倒れていなかったとしても、このような夜遅くに人の家を訪ねるのは失礼だと思いますが」

「うん……そうなんだけどね、ちょっと事情が……」

「どのような事情かは存じませんが、礼儀知らずだと思いますよ」

 丁寧な言葉遣いだが、節々に棘があり、ユーは顔を引きつらせながら笑った。ヴェントは隣で渋い顔をし、ジューメを見上げる。

「事情も事情、オレ達は斑点の事を調べるために長を訊ねたいんだ……あ?」

 深いためいいとともに振り返ってみると、そこにアンスの姿はなかった。それに首をかしげていると背に悪寒が走り、ジューメは勢いよく身を翻す(ひるがえす)と自身の「尾」を逃がす。

「ふむ、珍しいですね。尾があり、キチンとした鱗もある」

 いつの間にかアンスがジューメの尾に目をつけ、触れ、鱗を逆撫でていたようだ。ジューメは苦い表情をしたままアンスと自然に距離を取り、ユーとヴェントに並ぶ。それでもアンスはジューメの尾を、ジッと見つめていた。

「それに、敏感です」

「なんだ、てめぇ……」

 警戒心を丸出しにしているジューメの言葉も耳に入れないよう、アンスは上着からノートを取り出すとペンを走らせ始めた。そんな彼の姿にユーは苦笑し、ヴェントがユーを突く。

「ねぇ、この子は?」

「えっと、ボクは手紙だけじゃなくて小包なんかも届けるんだけど……。いつも、難しい本をリ・セントーレで注文している子なんだ」

「あんなもののどこが難しいのです? ただの参考書ですよ」

 ペンを走らせるアンスはジューメの尾から視線を外さないまま、サラリと言った。ヴェントはそれにいたずらっ子のような笑みを浮かべてユーの事を肘で小突く。

「だってよー」

「……ヴェントも見てみれば解るよ……」

「ところで、斑点の事を調べているとのことですね。それでなぜ、お医者様の元ではなく長様の元へ?」

 話のテンポが良いのか、悪いのか。ノートを取り終えたアンスは再びジューメに近づき、彼の尾を撫でながら言った。ジューメは諦めたのか尾を動かして逃がすのを止めていたが、不快なことに変わりはないのだろう、こめかみにはわずかに青筋が立っている。

「……龍のことを、知りたいんだ」

「なるほど」

「お、驚かないの?」

 アンスの反応の薄さに、ヴェントは思わず目を丸くして声を裏返した。それにアンスは顔も上げず、ただ優しく、鱗を撫でている。

「なぜ驚く必要が? 龍のことを知りたい、ということですね。では私の家へどうぞ、文献ならばあります」

 淡々と言うと、アンスは一人歩いて行った。三人は顔を見合わせて肩を竦め、その背を見つめる。

「……行こうか」

「オレ、あのガキ苦手だ……」

 怠そうに息を吐き出すジューメに苦笑し、ユーはアンスの家に向かって足を進めるのだった。

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