3-3
翌朝、ジューメに起こされ、ユーとヴェントは目を擦りながらも体を起こした。彼に渡された果物をのそのそと口に運びながら顔を上げる。
「風の龍は風の集落から遥か南西、ブリア・ガラ山脈の頂にいると言われているらしい。……ここからだと全力で飛んで二日程度、体力を考えながら飛んで四日ほどで着くと思う」
「出来る限り早く、行こう。……ボクは大丈夫」
「ボクも大丈夫だよ、毎日郵便配達で鍛えてるしね」
二人は軽く拳を上げ、揃ってジューメを見上げた。その表情にジューメは口の端を緩め、翼を広げる。
「行くぞ、しっかりついて来いよ」
綺麗に揃う二人の返事を耳に入れ。ジューメは加減なく、地面を蹴りあげた。
ユーとヴェントは、安易に大丈夫だと言ったことを後悔した。ジューメは文字通り、風を切るようにして飛んでおり、飛ぶ速度も距離をすすむごとに上がっている。今はかろうじて、彼のなびく髪と尾が目印になっているくらいだ。ユーは自分より少し遅れているヴェントの手をきつく握り、呼吸を整えながらもひたすらに飛び続ける。
自分が言ったことに、責任は持ちたかった。これ以上ジューメに引き離されないためにも、翼を動かすほかない。
「……しまった、さすがに着いちゃ来れないか」
ジューメは後方が遅れていることに気づくと飛ぶのを止め、二人が追いついて来るのをその場で待った。しばらくするとユーがヴェントを連れる形で、肩で息をし、荒い呼吸を繰り返しながら自分のもとに来る。上手く速度を落とすことが出来なかったのだろう、頭から突っ込んできた二人を受け止め、貪るように空気を吸う彼らの頭を軽く胸元に押さえつけた。
「悪い、飛ぶのが早すぎたな。休憩しよう」
「だい……じょ、ぶ。早く、斑点の原因、知りたいから……」
「ボクも、飛べる……。父さんと母さんが助かるなら、今、無茶をしてもいい……」
顔を真っ赤にしながら、二人とも、必死な面持ちだった。
それでもジューメは二人を連れて地面に向かい、二人を木に寄りかかるようにして座らせると傍にある川に布を洗いに行った。緩く絞るとすぐに戻り、汗だくになっている二人の体を軽くふいてやる。
「少し休んだら、また飛ぶぞ。今日は陽が落ちる前に野営の支度だ」
「でも、ジューメ……」
「無茶をしたところで、お前たちの両親がすぐに助かるわけじゃないだろ」
ヴェントは目を見開き、ジューメをにらんだ。だがすぐに顔を伏せ、悔しそうに唇を噛む。
龍のもとにたどり着いても、斑点の事が判るかどうか……確証はないのだ。
「それに、今無茶をしてオレ達がぶっ倒れたら、判るものも判らないままに終わる。だから、な?」
優しく続け、ヴェントの頭を帽子越しにクシャリと撫でると、ジューメも木に寄りかかって目を閉じた。ヴェントはうつむいたまま肩を震わせており、ユーが顔を覗き込む。
「ヴェント、大丈夫?」
「うん。……ジューメの言うとおりだ、ボク達が倒れちゃったら意味がないものね」
微笑み、地面に大の字に倒れると、深く息を吐き出した。汗は止めどなく流れて地面を濡らし、ヴェントは上着と帽子を脱ぐと適当に放る。
「もう、クタクタだ……ユーみたいには、飛べないや」
「ううん、そんなこと……。ボクももう、疲れたよ。少し休もう」
ユーは一度、自分の手に描かれる眼を手袋越しに見ると、横になっているヴェントの隣に転がって目を閉じた。
「ユー、ユーってば! 起きて!」
どれほど眠ったのだろう、ヴェントに体を揺さぶられ、ユーは重い瞼を上げた。目を擦り、辺りを見回す。
懐かしい夢を、見たような気がする。夢の内容はあまり覚えていないが、懐かしさだけは胸中にあった。不思議に思っているとジューメに顔を覗き込まれ、ユーはまばたきをする。
「大丈夫か?」
「あ……うん。大丈夫だよ、行こう」
立ち上がり、服についている土を払った。ジューメはすでに宙に浮いており、ヴェントもそれに続いて行く。ユーは夢の内容を思い出そうと首を傾げたがすぐに緩々と首を振り、翼を開いて二人の後を追うのだった。
その日は宣言通り陽が落ちる前に野営の支度を終えてしまい、陽が落ちてしまう頃には三人とも休んだ。次の日は体力を考えながら飛び、少しでもブリア・ガラ山脈に近づく。




