3-1
ユーは太陽が顔を出す前に、テーブルの上に明かりをともし、短い手紙を書いた。それをそのままテーブルの上に置き、自分の手の甲にある眼を見つめ、まだ眠っているだろう局長さんの部屋に視線を向ける。
「……何も言わないで行くこと、ごめんなさい。局長さん」
と、玄関に足を運び、扉の前に置いてあるバッグに目を止めた。普段、自分が配達をするとき、そしてヴェントと遊びに行くときに使っている物だ。
昨夜、こんなところに置いただろうか?
持ち上げようと肩ひもを手にすると、バッグはずっしりと重く、ユーはバッグの中身を見た。保存食や着替え、水が入った竹筒、そして一通の手紙が入っている。
その手紙は開かず、バッグの中に戻すと、ユーはいつものように肩に斜めにかけた。振り返らずに家を飛び出し、ヴェントの家を目指す。
家の前ではすでに二人が準備を終えており、ユーもそこに降り立った。ジューメは大剣を背負って麻袋を一つ肩に下げ、ヴェントは長剣を腰に下げて腰にはポーチを、肩にはバッグを掛けている。
「お前たち、準備はいいか。しばらくは戻って来られないと思うぞ」
「いい、わかってる。……ヴェントは?」
「ボクも大丈夫、きちんと話をしてきたよ。……いつでも行ける」
二人の返事にジューメはうなずき、翼を広げた。ユーとヴェントもそれに続くよう、白んで来た空に向けて地面を蹴飛ばす。
「まずは風の龍のもとに行く。オレが調べられたのは、そこだけだった」
「ジューメ、一人で調べたの?」
ユーが首をかしげると彼は頭を掻き、そっぽを向いた。
「斑点が広がり始めてからすぐ、風の竜人の知り合いが、異変に気づいてな……。あいつ、妙に勘が冴えるから。それでどうにか龍のおとぎ話と、その元となっていそうな伝説を調べただけだ。難しいことは何もねぇよ」
「……どうやって? そもそもボク達、そのおとぎ話もよく知らなくって……」
「もしよければさ、そこから教えてよ!」
「……ま、オレ自身オレに尾と角がなければ、調べてみようとも思わなかったからな。簡単に話してやるよ」
――むかしむかし、この世界には龍が溢れていました。大きな体で大きな翼を持ち、頭に角を持っている龍たちは世界で一番強く、この国の守り神でした。
そしてある時、龍の中で、龍とは違う子供が生まれました。肌にウロコは持たず、頭に角もありません。なによりも大きさは、龍の掌ほどもありませんでした。自分たちと全く違う姿をしたその子の事を、龍たちは『竜人』と呼ぶことにしました。
その竜人は、各種の龍から生まれてきました。自分たちよりもずっとずっと体の弱いその子供たちと自分たちが一緒に生活していくのは、危ないのではないだろうか。龍たちの間で、そんな話し合いが起こります。小さい彼らが地上を歩いていると、自分たちが歩く場所がありません。
そこで、真紅の鱗を持った炎の龍は、灼熱地獄の中へ。
青い鱗を持つ水の龍は、海の中へ。
青緑の鱗を持つ風の龍は、ずっと高い山の上に。
黄色の鱗を持っている雷の龍は、風の龍よりも高い、雲の上に行くことにしました。
そして龍たちは今日も、自分の子供たちである私たち竜人の事を、いつまでも見守っているのでした――
「……ってのが、おとぎ話だ。ま、闇の龍と光の龍が出てこないわけはもう判るな」
「なるほどねぇ……。でも聞いたことないや」
「言っただろう、オレも、自分に尾と角がなければ調べてなかったって。ずっと昔のおとぎ話だ、風の龍の伝説が書いてある文献を探し出すのも必死だった」
ジューメの話を聞いている間に、三人は森の上に差し掛かっていた。視界いっぱいに森が広がっていることを確認するとジューメは翼を緩くたたみ、地上に向かって行く。それを追うようにユーとヴェントも森の中へ入っていった。
「ジューメ、どうしたの」
「ここからは森が深い、空からだと休む場所を探すのが大変だからな、しばらく歩くぞ」
ジューメの判断に任せ、二人はうなずくと彼の後を着いて歩いた。




