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模擬幻想試験  作者: 仙崎無識
一時限目~社会分野~
8/8

一時限目:社会分野(6)

用語解説

領域発動:指定した空間内で特定の能力を使用し、力を行使すること。

球体(スフィア)」:領域発動第一形態基本形。

城壁(パレスウォール)」:領域発動第一形態。六角形のパネルで覆われた範囲のものを外界の物理的衝撃から保護する。保護の度合い、範囲は能力の強弱によって決まる。

紗幕(ベイル)」:領域発動第一形態。これに覆われた場合、一度だけ物理的攻撃を無効化する。無効化の度合い・範囲は能力の強弱による。

海綿(スポンジ)」:領域発動第一形態。液体を吸収する。液体吸収の度合いは能力の強弱による。

容器(コンテナ)」:領域発動第一形態。ものを保存することが出来る。大きさは能力の強弱による。

止揚(アウフヘーベン)」:領域発動第一形態。ものを持ち上げることが出来る。高さ、重さの上限は能力の強弱による。


「現実残存の法則」:領域発動で創ったものが消えても、現実のものや効果は持続するという法則。

村が襲撃される、数刻前。



深夜が滞在する舟黒村から東に如何程か離れたところにある小高い丘の上に、皇家軍は陣を布いていた。



その最奥部、本丸にて。


藤崎深夜同様「受験者」である赤羽護人(あかばねもりひと)は総大将である西園寺照光と話をしていた。



本丸の周囲に設置された篝火が煌煌と夜を照らす中、中空に昇った満月だけが仮初の世界から更に隔絶された冷え冷えとした光を放っていた。



「・・・はは、あの村長、きっと動揺しているだろうな」



南蛮から仕入れたらしい望遠鏡(テレスコープ)で村の様子を窺う西園寺は、どこか嬉々としていた。




「それは確かなことかと」


対する赤羽は、あくまで冷静だ。




「・・・つれない奴だなあ、赤羽。お前の学友が危機に晒されているかもしれないにもかかわらず」



赤羽の様子が己が予想した物とは異なることが西園寺にとっては面白くないようだ。




「・・・まあ、なんだかんだ言って彼奴は多分これくらいどうってことない奴ですから」


薄く笑ってそう答える赤羽。



「・・・この試験においてはどちらかしか「勝者」にはなりえないのに?」



西園寺の言葉に、赤羽から表情が消える。





「・・・やはり貴方は最初から知っていたのですね」



まあそうでなければ俺を拾う訳が無いでしょうし



赤羽はそう答えると、眼鏡のブリッジを指で押し上げた。




「はは、まあな。この「世界」の一部の者には知らされていることだが、ここは「試験会場」なのだろう?で、「試験」には「合格」と「不合格」がつきものなのだ、とも」



西園寺の言に少々眉を顰めながらも、静かに話を聞く赤羽。




「ま、我が軍最高の手練れがこれから村を襲撃する。その友人とやらが生き残る可能性もじき無きに等しいものになるだろう」



「出陣の準備をしてきます」


西園寺の言葉に何も意見せず、赤羽は陣幕を出た。




* * * * * *








轟音。閃光。激震。






家自体が吹っ飛ばされそうな衝撃に、俺は咄嗟に領域発動第一形態「球体(スフィア)」を発動し、「城壁(パレスウォール)」を展開する。


いつもの如く薄青色の六角形のパネルが俺と菖蒲(あやめ)の周囲を覆い、振動や、爆発による熱を全て遮断する。



「一体何なんだよ・・・・・・って!!」




家自体が崩壊し、否応なく外に放り出された俺たちが見たのは、半ば焼け野原と化しつつある村だった。



「なん、で・・・・・・?」


菖蒲が呆然と呟く。



家々に火を放ち、逃げる村人を片っ端から斬り殺しているのは、太陽と月が描かれた(のぼり)を挿した武士たち、つまりは皇家側の兵、だった。




「皇家側とこの村は友好関係にあったはず・・・・・・それなのにどうして!!」



菖蒲が「城壁(パレスウォール)」から出ようとする。・・・しかし、それは危険だ。




「菖蒲、危険だから――――――――――」




「深夜さん、ここから出して!!」






鬼気迫る菖蒲の声に、取り敢えず「球体(スフィア)」で周囲の危険レベルを探り、安全そうなところで「城壁」を解除した。






その次の瞬間、矢が俺の耳元を掠め去る。





「!!」





内心で絶叫したくなるほどビビったが、二撃目が来る前に背後を「紗幕(ベイル)」で覆った。これで不意打ちも一度目は無効化出来る。





俺が色々と準備をしている間に、菖蒲は何処に隠し持っていたのか、長巻で以て皇家側の兵士何人かを気絶させていた。





木造の家屋が多いため(当たり前か)、火の回りが速く、家の中に居た人間は外に出ることを余儀なくされ、外に出たところで兵士に殺される。



負の連鎖だった。





「深夜さん!」



何人目かの兵士を昏倒させた菖蒲が俺の名を呼ぶ。




「っはい!」




「さっきやった壁?みたいなものに、水とか出せるやつありますか!!」



彼女の言葉に、俺の脳内を様々な種類の領域発動が駆け巡る。




「あるにはありますけど、水場が要ります!」



俺の言葉に菖蒲は



「村の中央に井戸があります!それを使ってください!!あと、村長の様子を見てきてください!」



そう叫ぶと、村人の救助と兵士との戦闘に向かっていった。




俺は村の中心を目指した。





* * * * * *






赤羽と西園寺は舟黒村に来ていた。



西園寺の部下がとめたが、西園寺は言ってきかず、赤羽も連れてこられる形となった。




「・・・良い具合に炎上しているな」



部下は全員村人の殲滅に向かっているらしく、この場には赤羽と西園寺、あとは燃え盛る炎と死体しかない。





「嗚呼、良い夜だ」


まるで散歩にでも出かけているような感じで西園寺が歩く。・・・勿論、逃げてきた村人を一刀両断することも忘れない。





「あの渚の老人、さぞかし驚いているだろう。・・・いや、もう死んでいるかな?」




西園寺がそう呟いた後、村上空に何かが広がり始めた。






* * * * * * 






「あった!」





村の中央部。菖蒲の言葉通り井戸が存在した。



どうやら村で生き残った人も井戸水を使って消火しようとしているらしい。




「すいません!」



近くにいた中年の男性に声をかける。




「あんたは・・・村長が言うところの、客人か?」



「客人の割には斥候とかやらされてたけど・・・まあ、そうです。・・・えと、この井戸、結構な量の水を使っても、涸れませんよね?」




確かに、菖蒲が望むような「方策」はある。


ただ、大量の水が必要だった。




「・・・ああ。・・・何をする気だ?」


怪訝そうな顔をする中年の男性に、


「・・・消火活動、です」



そう言ってのけると、領域発動「海綿(スポンジ)」で創りだした板状の物体を井戸に放り込み、井戸の水を粗方吸い出すのを「球体」で様子を見ながら待つ。


周りで水をすくっていた人達が急に水がなくなったことに驚き、俺の周囲に寄ってきた。




「なんだなんだ?」


「火消しの手伝いしてくれるってよ」


中年の男性が周囲の村人に説明してくれる。ありがたい。



「あの、火は俺が消しますんで、皆さんは警備をお願いします!」


俺の言葉に、半信半疑そうではあったが、村人たちは怪我をした村人の手当てや、周辺警護を始めた。



水を吸い終わった「海綿」を「球体」の力で引き揚げ、次は「容器(コンテナ)」に「海綿」を入れ、「海綿」を解除する。


これで、「海綿」が吸った水は全て「容器」の中に入った。



「現実残存の法則」から、領域発動で創りだした物体や効果が消えても、現実のもの――――――――――今回は水――――――――――は、残る。




「容器」を領域発動「止揚(アウフヘーベン)」で村の上空に持ち上げる。




確かに、俺の領域発動の範囲は俺の視覚の範囲だけだ。


つまり、上空まで見えていれば問題ない。



そして、「容器」の形を薄っぺらく、出来るだけ村全体まで伸びるようにカバーする。



ここでも、俺の領域発動の範囲は俺の視覚の範囲だけになってしまうが、それは「安定」してその(・・)状態(・・)()()とうとした(・・・・・)場合(・・)だけのことで、一瞬で広げて一瞬で水を落とすだけなので、今回は問題ない。



斥候時に見ていた村の全容図を出来るだけ鮮明に思い出し広げていくと、自ら解除する前に力不足のために「容器」と「止揚」が解除されてしまう。




大量の水が村全体に降り注ぐまで時間はかからなかった。






* * * * * *





深夜が使った領域発動による水は、西園寺と赤羽の上にも降り注いだ。




「――――――――――!!」



咄嗟に赤羽は領域発動「反射」で水を全て弾き返したが。



西園寺の上には容赦なく水が降り注いだ。





「・・・・・・赤羽」



水に濡れた西園寺の、地を這うように低い声が響く。





「・・・は」




「・・・コレを仕込んだのは、お前の友人か?」



深夜の当初の目論見通りに、皇家軍によって放火された家屋は鎮火されていた。




「・・・恐らくは」




赤羽は内心深夜の試みに舌を巻きつつ、そう答える。




「総大将による命令だ。・・・即刻、その学友とやらを抹殺して来い」



西園寺の眼は悪鬼羅刹すら足が竦むような輝きを放っていた。




「・・・仰せのままに」






赤羽は一礼してその場を走り去った。




・・・随分とお久しぶりになってしまいました。


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