一時限目:社会分野(5)
・・・さん、・・やさん、
上の方から声が聞こえてきた。
・・・深夜さん!
瞼を開くと、菖蒲が俺を覗き込んでいた。
「・・・・・・っ!!」
慌てて飛び起きる。
やばい。めちゃくちゃ恥ずかしい。
つーか意次さん来るんじゃなかったのかよ。
「おはようございます、菖蒲さん」
「おはようございますっても、もう夕方だけどね」
苦笑する菖蒲。ナリ悪いったらありゃしない。
「・・・・・・意次さんは?」
居た堪れなくなって、尋ねてみる。
「・・・長老を迎えに行ってる」
ん?あのじいさんどこかに出掛けていたのか?
「・・・あの人どこに出掛けているんだ?」
俺の疑問に菖蒲は首を傾げ、
「さあ・・・最近は皇家側の人間との会談を頻繁にしてるっぽいんだけど・・・」
詳しいことはさっぱり、と答える菖蒲。
「夕飯が出来たから呼びに来たんだけど、食べる?」
外を見ると、既に日は暮れており、星が輝きだしていた。
「・・・あー、ごちそうになります」
俺は自分の食欲に忠実に従った。
* * * * * *
「どうぞ、」
「いただきます」
菖蒲が暮らしている家にて。
俺は普通にゴチになっていた。
女子の住んでいる家に上がって一緒に飯を食う(しかも二人きり)、なんて現実世界じゃ憤死するようなシチュエーションだが、これは試験。努めて冷静に、飯を食う。
今晩の献立は、雑穀米、焼き魚、お吸い物と純和食だ。納豆が無いのが誠に遺憾である。
「・・・味、大丈夫?」
遠慮がちに聞いてくる菖蒲に、
「大丈夫。美味しいよ」
と返す。
しばらく無言で食べ進める・・・・・・すげえ気まずい。。
ふと、
「・・・・・・意次さんと会ったの?」
菖蒲が箸を置いてこちらを見る。
隠すほどのことでもないので、正直に話す。
「・・・・・・うん」
「・・・何か、私のことについて話してた?」
「・・・まあ、親のこととか、あと赤羽さんって人のこととか・・・」
「赤羽さん」と俺が言うと、菖蒲の雰囲気が明らかに変わった。
「・・・赤羽様は、つい最近まで私と一緒に暮らしていた私の従兄。幕府側と皇家側の争いが激しくなってきまして、皇家側に徴兵されてしまってからはめったに会えなくなったんだけど・・・意次さんの知り合いが赤羽様と同じ皇家側の軍に徴兵されているらしいから、様子は聞いていたの。それが先日危ない目にあったという知らせが届いて・・・」
無口かと思っていたら、結構喋る方だったんだな、菖蒲。
「ちなみに、赤羽さんってどんな人なんだ?」
少しでも情報を集めようと、菖蒲に話を聞く。
「陽だまりの中に居るのが一番似合う人、かな」
端的に表現される。
・・・・・・まあ、俺も現実世界の赤羽をそこまで知っている訳ではないのではっきりしたことは言えないが、少なくとも現実世界の赤羽はそんな表現が似合いそうな人間には見えない。
「あったかくて優しくて・・・それなのに、こんな意味のない争いに巻き込まれて・・・」
菖蒲が此方を見る。
その眼は、哀しみを知りすぎた眼だった。
「・・・・・・深夜さん。さっき、長老が言っていたことを聞いたの。深夜さんはこの国、ううん、この世界とは異なる世界から来た人だって」
菖蒲が箸を置く。
俺はといえば、菖蒲が俺の「正体」を知っているのではないかと内心で狼狽えまくっていた。
「・・・いや、うん、まあ、その言葉は間違っちゃいないけど、」
・・・・・・言葉の端々にまで狼狽が出てどうする。
「お願いがあるの」
菖蒲と俺の視線がかち合う。
「もしも、本当に深夜さんが異世界の人間ならば――――――――――――――――――――
瞬間。
爆音と昼のような明るさに辺りが包まれた。
・・・・・・去年以来の更新。随分と、御無沙汰してました。非常に申し訳ないです。