飼い狼ゲット作戦
「どうですかな? 出来の方は」
「うんうん。いい感じだねっ!」
温泉ともふもふと鍋と刺身を堪能した後、魔女はようやく本来の目的である素材アイテム持ち込みによる防具アイテム作成を思い出したのでした。
最初にドワーフに預けた巨人の牙と爪は、それはそれは立派なものでドワーフたちも大喜びでした。報酬は素材アイテム一割ということで話はついています。ドワーフ相手では金銭報酬よりも素材報酬の方が喜ばれます。さすがは鍛冶の一族です。
そして魔女が依頼していた防具アイテムは僅か一日で完成したのです。
ドワーフの鍛冶能力こそチートだと思う魔女でした。
完成した四つの防具アイテムを持ってにゃんこ達の元へ駆けつけます。
「にゃんこ~。ちょっとおいでおいで~」
「ますたぁ? どうしたの?」
とてとてと魔女の元に寄ってくるにゃんこです。とっても素直で可愛らしいですね。自分がこれから何をされるのか全く理解していないのがまたたまりません。
「えいっ!」
ちり~ん、という音と共ににゃんこの首に巻きつけられたのは、大きな鈴のついた首輪でした。
「にゃ?」
「にゃんこ専用の防具だよ~。これで物理攻撃も魔法攻撃もある程度防いでくれるから」
「ほんと?」
「ほんとほんと。だから肌身離さず付けておくんだよ~」
「うん! ますたぁありがと~!」
無邪気に喜ぶにゃんこです。
勇者が少し離れた位置で、
「飼い猫の首輪じゃん……」
と呟いているのは勿論聞こえないふりです。
「黒鍵騎士にもプレゼント♪」
「え?」
にゃんこの物よりも一回り大きな鈴付き首輪をプレゼントしました。
「………………」
にゃんこと違って首輪の意味をしっかり理解している黒鍵騎士は、微妙な表情で黙り込んでしまいます。
「あの……魔女殿。気持ちは嬉しいのですが、仮にも魔王陛下の部下である私が他者の手による首輪を巻くのは抵抗があるのですが……」
魔女を怒らせないように、なるべく言葉を選びながら辞退しようとする黒鍵騎士ですが、ずいっとそばに寄ってきた魔女にじっと見つめられると何も言えなくなります。
「ふーん。でもドワーフ製なだけあってこの首輪ってかなり強力な防具なんだよ」
「う……」
騎士としては『強力な防具』という言葉にぐらつかずにはいられません。魔女はそのあたりを絶妙にくすぐってきます。黒鍵騎士に自分の首輪を付けさせて『飼い猫』ならぬ『飼い狼』気分を味わっちゃうぜ作戦遂行中、みたいな?
「騙されたと思ってちょっと付けてみてよ」
「まあ、せっかくなので少しだけなら……」
と、自らの首に巻きつけてみます。
「勇者。ちょっと黒鍵騎士を攻撃してみてよ。八割ぐらいの力でいいから」
「マジかよ。壊れないか?」
「魔力は籠めないでね。腕力のみで」
「分かった」
魔女の指示通りに黒鍵騎士をわんぱち攻撃してみました。
「っ!!」
来る、と身構える前に、物理障壁が発生しました。
「あ……」
勇者の拳は手前で止まっています。寸止めではなく、障壁が防いでくれたのです。威力は障壁の音で分かります。手加減したとは思えない強力な攻撃だったはずです。
「すげーな! さすが巨人素材!」
勇者は感心しながら拳を引っ込めました。
「じゃあ今度は私ね~」
魔女は間髪入れずに炎の矢を百連発で撃ち込んできました。
「~~~っ!?」
心の準備が出来ていないままそんな事をされたので黒鍵騎士もびっくりして固まってしまいます。
しかし能動防御するまでもなく、再び魔法障壁が防いでくれました。
「あ……」
対物、対魔法共にずば抜けた性能です。……首輪なのに。
「すごいね~。ぼくのもおんなじなんだよね?」
「そうだよ~。これでにゃんこの安全ラインはかなり引き上げられたのだ!」
「じゃあますたぁがおでかけのときはぼくもついていける?」
「んふふ。男の子がアイテム頼りとは感心しないぞ。しっかり自分の力もつけないとね」
「う……わかった。がんばるっ!」
「うん。頑張れ!」
甘やかしつつ発破をかける。使い魔とご主人様は中々良好な関係を築いています。




