時間魔法お刺身便
温泉の後はもちろん鍋です。
四人で鍋をつついています。
「あいかわらずおいち~」
「おいし~♪」
「うまうまだなっ!」
「ロリブロマイド……」
黒鍵騎士はまだ色々気にしているようです。これまでとこれからの苦労が色々と偲ばれます。
にゃんこの方は耐熱防御魔法を覚えたのであつあつ鍋でもどんと来いです。外見はショタでもひらがなしゃべりでも、中身はちょっとずつ成長しているのです。
「んー。でもこうなってくるとお刺身とかも欲しいなぁ。火山で刺身は無理かもしれないけど」
魔女はあまり深く考えずにそんなことを口にします。
「ふっふっふ。そう言うだろうと思ってたぜ!」
何故か勇者が得意気です。無駄に偉そうなのでちょっとムカつきました。左頬には魔女の渾身パンチの跡がしっかりと残っているのですが。
勇者は手持ちのバッグからオードブル箱のようなものを取り出しました。明らかにバッグと中身の大きさが合っていませんが、これも魔女の鞄と同系統のアイテムということでしょう。
そしてばかっと蓋を開けます。
「こ、これわーーっ!?」
凍結魔法で保存されていた箱の中身は、刺身のオンパレードでした。
鯛、ヒラメ、かんぱち、ブリ、イカ、甘エビ、まぐろと様々な刺身が所狭しと並んでいます。
「温泉と言えば鍋! そして刺身! 日本人なら刺身だろう! ということで月詠の里であらかじめ用意して貰っておいたんだよ。あとは時間停止魔法で保存して、ここまで持ってきたって訳さ」
「ナイス! 珍しくナイスだよ勇者!」
久し振りの刺身に魔女が大はしゃぎです。
「おさかな~!」
お魚好きのにゃんこも大はしゃぎです。
「……鍋、美味しいですね」
そして黒鍵騎士だけはもくもくと鍋をつついています。この二人の会話に参加すると被害が拡大することをそろそろ悟っているようです。
「待て!」
さっそくお刺身に箸を伸ばそうとする魔女を勇者が止めます。邪魔をされた魔女は勇者を睨みつけました。
「なによ」
「こいつを食べたければにゃんこを膝にのせさせろ」
「………………」
どうやら本格的ににゃんこがやばいです。勇者に貞操奪われるかもしれません。
「……膝にのせるだけ?」
「膝にのせるだけ」
勇者と魔女の間で火花が散ります。ある意味において魔王VS勇者戦争よりも真剣味に溢れています。
この勇者どうしょうもねー! とか突っ込むのは禁止です。英雄の裏側なんてどこもこんなモノです。多分。英雄色を好むなんて言葉もあるぐらいにどうしようもないのです。この勇者の場合は色というより『もふもふ』好むって感じですけど。
「むぅ……」
魔女はにゃんこが大事ですが、お刺身も食べたいのです。
両方いいとこ取りしたいのです。
……この魔女も大概どうしようもありませんとか突っ込まないでください。
「にゃんこ。勇者の膝に行っていいよ」
という訳で妥協しました。膝にのせる程度なら許容範囲です。そしてお刺身ゲットなのです。温泉のように全裸でのせられてないだけまだ安全です。
しかし釘を刺すのは忘れません。
「お尻に変なモノが当たったらすぐに報告するんだよ」
「っ!?」
「は~い」
素直に従うにゃんこ、冷や汗だらだらの勇者。もう一度あのぱんちを食らうのは絶対に遠慮したいところです。大体、魔女のぱんちが勇者を山の向こうまで飛ばすとかチート性能ぶっちぎり過ぎます。魔女が勇者に職業チェンジしてしまえとか一瞬考えてしまったぐらいです。
「んー、おいち~」
久し振りのお刺身に魔女はご機嫌なのでした。




