渾身の右ストレート
「でも黒鍵騎士を貸してくれたのは魔王だぞ。お役目を途中で放り出すのは感心しないなぁ」
「そう言えば魔王は何を対価に黒鍵騎士を貸し出してくれたの?」
「ロリ美少女のブロマイド百枚セット」
「………………」
そんなもので貸し出された黒鍵騎士を心底哀れに思う魔女でしたが、黒鍵騎士もその事は知らなかったらしく、泣きだす寸前の潤んだ瞳になっていました。
「陛下……いくらなんでもそれは安すぎではないですか……」
などとぶつぶつ呟いています。
忠誠心が真面目に揺らぎそうです。
さすがに可哀想になったのでちょっとそっとしておこうと勇者を振り返った魔女ですが、膝の上に乗っていたにゃんこが目を醒ましてしまいました。
「んにゅ~」
「あ、にゃんこ起きた?」
「うん。きもちよくてちょっとねてた」
「そっか。私の膝にくる?」
「いく。ゆうしゃのひざはさっきからおしりにかたいものがあたってびみょ~だもん」
「げっ」
「………………」
にゃんこの爆弾発言に魔女の血管が百本ほど一気にブチ切れました。
右腕に渾身の魔力を流し込んでから、
「ま、待て! これは不可抗力だ! 男の哀しい生理現象だっ!」
勇者は慌てて逃げようとしますが、にゃんこがいるお陰で動けません。
「やっかましいわーーっ! 貴様うちのにゃんこに何穢らわしいイチモツ押しつけとるんじゃーっ!!!」
「ぎゃひいいいいいいっ!!」
怒れる魔女の渾身パンチを受けた勇者は星の彼方まで……ではなく、火山の麓あたりまで飛んでいきました。
「ますたぁすごーい!」
にゃんこだけが無邪気に拍手をします。
「まったく。油断も隙もない。あんなのに一度は世界が救われたなんて悪夢なんじゃないの?」
「……ロリ美少女ブロマイドでレンタル……安い……安すぎる……」
憤慨する魔女とぶつぶつと悩む黒鍵騎士。
そして魔女の膝でご満悦のにゃんこ。
フリューガ火山の温泉旅行はまだまだ続くのでした。




