もふもふだーっ!
呪いの解けた大樹と少年の身体はすっかり元通りになっていました。
生霊は魔女たちにぺこりと頭を下げます。
『ありがとうございました。これでソーマの大樹も、僕も、元通りになります』
「ま、君がいいならいいんだけどね」
許容限界を超えた魔力を流し込まれたおかげで、少年の身体は死んでしまいました。
生霊だった少年は、正真正銘の幽霊になったのです。
そのことが引っ掛かってあまり気分がよくないのは確かなのですが、本人が納得している以上は魔女が何を言ったところで仕方がありません。
「まあそこまで悲観することでもない。この少年は次世代魔王の一部になるのだ。その血肉にこれだけ強烈な影響を受けたのだから、人格は間違いなく色濃く残るだろうな。もちろん記憶も」
『え? えぇ!? ぼ、僕の人格が次世代魔王に組み込まれるって言うんですか!? あ、あの……それはちょっと大役過ぎるというか……遠慮したいんですけど……』
幽霊が急にうろたえだします。
生贄だったはずが次世代魔王の人格に組み込まれると言われたのですから焦る気持ちもわかりますが。
「人格が残るの?」
「そりゃあ誰かの人格が残らないと空っぽの器じゃ困るからな」
「誰の人格が残るかなんて分からないじゃない。生贄ってこれまでにもいたんだろうし、これからも捧げるんでしょ?」
「もちろんだ。それが森の民の役割だからな。ただ、今回は特別だ。呪いを受けた。解呪した。勇者と魔女の魔力を受けた。これは貴重な情報だ。次世代に受け継がれなければならない記憶だ。同じことを繰り返すわけにはいかないからな。だからこの少年の人格と記憶が次世代魔王に受け継がれる可能性は極めて高いのだ」
「はあ~。なるほどね」
分かるような分からないような、魔女はあやふやな返事で応えます。
次があるというのはある種の希望です。
ここで終わりではないというのは、なんだかとてもいい事のような気がしました。
「大丈夫だよ。魔王なんてそこまで責任重大じゃないと思うよ。このおっちゃんなんて謁見の間でこたつにみかんな有様だったんだから。君の方が立派な魔王になれる可能性が高いぐらい」
『そ、そうかな……』
幽霊はすっかり縮こまってしまいます。
『こ、こたつにみかんかぁ……ちょっといいかも?』
……縮こまったまま余計なことを考えているようです。
「魔王って行動や嗜好が似たりするわけ?」
「さあ。余は先代を知っている訳ではないからなんとも言えぬなあ」
「………………」
次世代魔王もこたつにみかんでぐーたらな感じになってしまうかもしれません。
しかしそれは魔族の未来であって、魔女には何の関係もないので干渉する気もありません。
『じゃあ、そろそろ消えますね。もうお会いすることはないでしょうけど、本当にありがとうございました』
生霊はそう言って消えてしまいました。
何の未練も残さず、笑ったまま消えてしまいました。
あとに残されたのは魔女と勇者、魔王と黒鍵騎士、そしてにゃんこでした。
「……さてと」
魔女はしんみりせずに気を取り直します。
「ひと段落ついたところで」
勇者も振り返って黒鍵騎士の肩を掴みます。
「………………」
黒鍵騎士はひきつった表情で勇者と魔女を見つめます。
「「もふもふだーっ!」」
「ひょわあああああっっ!!??」
勇者と魔女のダブルもふもふセクハラを受ける羽目になった黒鍵騎士はぼろぼろになるまでもふもふなでなでぎゅーぎゅーされるのでした。
「ぼくも~」
にゃんこは二人に便乗して黒鍵騎士の尻尾の付け根を思いっきり握りました。
「ぎゃふーっ!?」
どうやらそこが急所だったらしく、言葉にならない悲鳴を上げた後、黒鍵騎士は気絶してしまいました。
「うにゃ?」
どうして黒鍵騎士が気絶してしまったのか分からないにゃんこは、はてなと首をかしげます。
「なるほど。そこが急所か」
「いいこと知ったね。にゃんこお手柄!」
「わーい!」
自分が何をしたのか分からなくとも、大好きなますたぁに褒めてもらえたので大喜びのにゃんこです。
「被害者街道まっしぐらだな。ご愁傷様だ」
自分の側近が勇者と魔女のおもちゃにされる未来を想像して、静かに合掌する魔王でした。




