オシャレって大事だよね?
街から少し離れた場所で降りた魔女は十五分ほど歩きました。
「ほえ~」
街はとても大きいです。
中世ヨーロッパ風の街並みは魔女にとっては新鮮な体験でした。
地球世界でも交通手段を利用すればスペ●ン村やハウス●ンボスなど、似たような街並みを歩くことは出来たのですが、わざわざ作られた偽物の街を歩くことにそこまでの魅力は感じませんでした。
「本物だぁ」
そしてこの街並みは本物なのです。
作り物でも、偽物でもなく、本物の街なのです。
魔女は感動しました。
街は歩いているだけでとても楽しいです。
ときどき買い食いをしながら魔女はご機嫌に街を歩きます。
燻し鳥のコンフィをかじりながらオレンジジュースをちゅーちゅー飲みます。
「美味しい。幸せ。異世界はらしょ~」
どうやら食文化そのものは地球世界とそこまで変わらないようです。
売っているものもほんの少し形が違うだけで、使用方法は地球世界とほぼ同じです。
これならばこちらの世界で違和感を感じることはほとんどないでしょう。
「食材は後回しでいいかな~」
買い食いでお腹一杯になった魔女は本来の目的であった食糧買い出しの優先順位が下がってしまいました。
状況に流されやすい困った子です。
しかし魔女とて年頃の女の子。
街中を歩いている内に致命的なことに気付いてしまったのです。
「ふ、服を買わなければ!」
若い女性はファッションを重視します。
少女なら尚更です。
セーラー服のままで異世界をうろつくのは目立つだろうと、魔女のローブをそのまま着用していたのですが、やはりこれは駄目です。
何が駄目って、センスが駄目です。
そして加齢臭がするのも致命的です。
若い少女に相応しく、可愛くて動きやすくて魅力的な服を購入しなければ!
そして魔女は洋服屋さんを見て回りました。
ざっと五時間は見て回ったでしょう。
女の買い物は、とくにファッションに関する買い物はとても長いのです。
買い物が終わる頃には紙袋が五つになっていました。
「おーもーいー……」
魔女は基本的に体力がありません。
一杯に詰まった紙袋五つも抱えていればそれは重いでしょう。
……よくよく考えたらこれを家まで持って帰らなければならないのです。
徒歩は論外。
箒で飛んで行くには微妙に重量オーバーの予感がします。
「……いや。私が重いんじゃないよ! 荷物が重いんだよ!」
一体誰に言い訳をしているのでしょう。
「困ったな~」
自業自得です。
困る前に気付け、みたいな突っ込みを入れたくなります。
そして食材の買い出しを忘れています。
魔女は考え込みます。
そして三秒ほどしてからぽん、と手を叩きました。
「あ、そっか。転移魔法を使えばいいんだ」
空を飛んで帰るのではなく、転移魔法を発動させれば問題解決でした。
あっさりすぎて拍子抜けです。
荷物預かり所に一旦預けてから、今度は食材の買い出しに向かいます。
荷物預かり所とは、地球世界で言うコインロッカーのようなものです。
ただし無人ロッカーではなくきちんと人間が管理しています。
食材の買い出しも終えた魔女は持ちきれないほどの荷物を受け取りました。
「お嬢ちゃん、大丈夫なのかい?」
預かり所の人が心配そうに声をかけてくれます。
「大丈夫大丈夫。心配してくれてありがとうね。ばいばい」
魔女はひらひらと手を振ってから転移魔法陣を展開させます。
そのまま荷物ごと一瞬で消えてしまいました。
その場面を見た預かり所の人が、
「ひっ!? ま、魔女だったのか!」
などと今更ながらに叫びます。
魔女のローブを着たままだったのに、いくらなんでも鈍すぎますね。