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魔王VS勇者 新年度最終決戦勃発!

「羽根突きをやろう!」

「………………」

「………………」

「にゃ?」

「………………」

 三日目に魔王が取り出してきたものは、羽子板と羽根でした。

 まさしくお正月です。

 魔女と勇者は胡散臭そうな視線を魔王に向け、にゃんこは興味深そうに羽子板を眺めています。黒鍵騎士は何故か青い顔になって目を背けてしまいました。

「なんで羽根突き?」

「うむ。ただの羽根突きではないぞ。負けた方にはしっかりとペナルティを課せられることになっておる」

「へぇ、どんな?」

 魔女が興味深そうに問いかけます。

「それはやってからのお楽しみだ」

「ふーん。そう言われると引き下がれないかな。にゃんこ、一緒にやる?」

「やるー!」

 魔女とにゃんこは魔王から羽子板と羽根を受け取ります。

 簡単なルールを聞いたにゃんこは、

「とにかくいたではねをうちかえせばいいんだね?」

 と、端的な理解を示しました。

「そうだよ」

「わかった~」

 魔女とにゃんこは羽根突きを始めました。

「ほっ」

「えいやっ!」

「ほいっ」

「にゃっ」

 かん、かん、かん、と二人の羽根突きは順調に続きます。危なっかしくもきちんと打ち返しています。

「にゃっ!?」

 すかっ、とにゃんこが目測を誤ってしまいました。玉の付いた羽根が地面に転がります。

「あう~。まけちゃった」

 にゃんこはしょんぼりしながら羽根を拾い上げようとします。

 その瞬間、羽根が爆発してしまいました。

「にゃ!?」

「にゃんこっ!?」

「さっそくペナルティだな」

「ちょっと、何したのよ!?」

 のんびりとしている魔王を睨みつけてから、魔女はにゃんこに駆け寄ろうとします。結構心配性です。

「ますたぁ~……」

「………………」

 にゃんこは鳥もちまみれになってしまいました。

「うご、うごけにゃい~~っ!」

 じたばたともがくほど、にゃんこは囚われてしまいます。

「うわ~。確かにこれは罰ゲームって感じだね」

 命に別状がないので安心した魔女は、素直ににゃんこのピンチを楽しむことにしました。

 心配性でドSという素晴らしいバランスです。

「心配しなくてもあとで解除してやる。最後の一人になるまでは続けるぞ」

 魔王は鼻息荒く宣言します。

「陛下。客人を虐めるのは感心しませんよ」

 黒鍵騎士がそっと窘めます。

「じゃあ次はお前が参加しろ。魔女と対戦だ」

「なっ!?」

 勝負に関しては我関せずを貫こうとしていた黒鍵騎士は焦ってしまいます。

「待ってよ。私は遠慮したいな。運動神経がいいわけじゃないし、実戦経験豊富な黒鍵騎士相手じゃ分が悪い。鳥もちまみれにはなりたくないし」

「心配しなくても種類がダブることはない。ちなみにこのペナルティの中身はな……」

 魔王が魔女の耳元でこそこそと言います。

「なっ!?」

「見てみたくはないか?」

 魔王の微笑みで魔女を誘惑します。

 悪巧みメイトです。

「み、見たい。でもやっぱり分が悪いというか……」

「緊急時の萌えパワーを甘く見てはいかんぞ、魔女よ。今の意気込みで臨めば十分に勝機は見出せる。火事場の萌え力というやつだ」

「なるほど! 確かにそうかもしれないね!」

 ……騙されています。

 魔女が魔王に騙されています。

 魔女が勇者を騙して、魔王が魔女を騙すという世も末な物語展開です。

「いざ尋常に勝負よ黒鍵騎士!」

「え~……」

 酷く気の進まない様子で、それでも主人の命令には逆らえないのか、渋々といった様子で羽子板を手にしました。


 ……三十秒後。

「ぐぎぎぎぎ……!」

 白い粘液塗れで悔しげに歯軋りする魔女の姿がありました。

「ぐっじょぶだ黒鍵騎士! ロリ少女の●●塗れ! 素晴らしきかな!」

「………………」

 魔王は鼻息荒く、むしろ鼻血を噴く勢いで黒鍵騎士を褒め称えました。親指を立てています。

 一方黒鍵騎士は魔女への申し訳なさから俯いてしまっています。

 如何に火事場の萌え力といえども、引き籠もり魔女と実戦経験豊富な黒鍵騎士という大きすぎるレベル差を覆すことは出来ませんでした。

「では次は勇者と黒鍵騎士でやってみるか?」

「……陛下」

 黒鍵騎士はプッツンマークを頭に三つほど装備しながら、自らの主を睨みつけます。

「魔王陛下ともあろうお方が、仮にも自ら主催した催しに参加しないつもりはないでしょうね。高みの見物は許されませんよ」

「う……」

「まだ参加していないのは勇者殿と陛下のみです。折角ですからお二人で戦ってください」

「うぐぐ……」

 黒鍵騎士のオーラを背負った怒りに押された魔王は、ビクビクなりながら羽子板を手にしました。

ここまで来ると勇者も逃げるわけにはいかず、渋々と羽子板を手に取ります。

「いざっ!」

「尋常に勝負!」

 魔王と勇者の最終決戦。

 その勝負内容が羽根突きなどと一体誰が想像できるでしょう。

 こうして戦いの火蓋は切って落とされたのです。


「………………」

 かかかかかかかかかか!

 ここここここここここ!

 羽根が凄い勢いで撃ち返されていきます。『打ち返す』のではなく『撃ち返す』というレベルの戦いです。

 既に目で追うことは出来なくなっています。

「人外バトルだね」

「ええ。万国ビックリショーです」

「みえないよ~」

 たとえ羽根突きであっても、そこは魔王と勇者の戦いです。人外バトルになるのは当然でしょう。

「なあ、魔王」

 撃ち返しながら勇者が尋ねます。

「なんだ?」

 魔王も答えます。

「負けたら今回はどうなるんだ? この羽根には何を仕込んである?」

「……聞いて驚け。幻術魔法だ」

「………………」

「丸一日女性化する魔法が仕込んである」

「……趣味が悪いぞ。俺はオッサンの女性化なんて目にしたくないんだが」

「心配するな。勝つのは余だ。お前は中々美形だからな。一度女にしてみたいと思っていたのだ。負けたら今夜一晩付き合って貰うぞ」

「げえっ! 冗談じゃねえぞ!」

 本気で寒気を覚えた勇者が全身からサブイボを浮かび上がらせます。その隙を突いた魔王が一気に勝負をかけました。

「もらったっ!」

「くっ!」

 魔王の渾身の一撃を勇者は撃ち返すことが出来ませんでした。

「ふざけんなこの野郎!」

 しかしそこで引き下がる勇者ではありません。咄嗟に捕縛魔法を発動させて魔王を拘束します。そのまま自分の方へと引き寄せました。

「なっ!?」

 そして羽根に仕込まれていた幻術魔法が発動します。

 ぼふんっ! と煙が二人を覆い隠します。

「………………」

「………………」

「ああ、やはりこうなりましたか」

 黒鍵騎士が嘆かわしそうに額を叩きました。

「うげ……」

 魔女も盛大に眉をしかめます。

 そこには美女になった勇者と、やけに濃い顔をしたおばさんがいました。

 女性化した勇者と魔王です。

「勇者はともかくとして、魔王は見られたもんじゃないよね……」

「ノーコメントです」

 黒鍵騎士は賢く沈黙を守りました。

「あははは! ひでえ格好だな魔王!」

「うぬうっ! 敗者の癖に見苦しいぞ勇者!」

「うるせえ! その状態で俺を一晩付き合わせられるもんなら付き合わせてみろ!」

「●●がないのにどうやって●●するというのだ!」

「知るかっ!」


 こうしてお正月三日目は、楽しくも醜い時間が流れていくのでした。


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