ほっぺた千切れそう
お正月二日目はすき焼きを食べに行きました。
「霜降り~」
「しろいつぶつぶがある~♪」
霜降り牛を目の前にした魔女とにゃんこが涎を垂らしそうな顔でにこにこしています。
「そんなに凝視しなくてもお肉は逃げませんから……」
黒鍵騎士がやや呆れた視線で魔女とにゃんこを窘めます。
「まあそう言ってやるな、黒鍵騎士。食べ盛りの子供の目の前にごちそうをぶら下げたらこうなるのも仕方がない」
黒鍵騎士の隣にいるのは魔王です。
今日は魔女とにゃんこ、勇者と魔王、そして黒鍵騎士の五人でテーブルを囲んでいます。
昨日のカニ鍋は結構な出費だったので、援軍として魔王を呼び出したのでした。
勇者がお財布の心配をして魔王を呼び出すというのもある意味珍しい光景かもしれません。
ちなみに勇者が魔王を呼び出した内容は『魔女のロリ着物姿を堪能したければすき焼き専門店肉将軍まで来るべし』という内容でした。
魔王は一も二もなく飛びつきました。
魔女の性格は困ったちゃんですが、魔女の外見は非常に魔王好みだったのです。
ぺったん胸のロリ美少女が振り袖姿で自分の領域内を練り歩いているという報せを受けたのですから、そりゃあ真っ先に飛んでいきます。
ちなみにすき焼きの代金は魔王と勇者の折半という事になりました。
貧乏魔王ですが、仮にも一国の王です。鍋の一食分くらいは奢ることが出来ます。
しばらくおかずが侘びしくなる程度のことで魔女のロリ着物が見られるのなら安いものです。……多分。
すき焼きも食べごろになってみんなで鍋をつつきます。
肉も他の具もたっぷり用意されているので、食べ盛りの子供特有の醜い争いは起きませんでした。
「おいしいね、ますたぁ」
にゃんこがはふはふしながら魔女に言います。
ちなみににゃんこは猫舌ですが、魔女から耐熱防御魔法を教わったので現在絶賛使用中です。これで熱々お鍋もどんと来いです。昨日も同じ魔法でカニ鍋を堪能していました。
「うん。ほっぺた千切れそうだねっ!」
霜降り肉を頬張りながら魔女が物騒な表現をします。
「……それを言うなら『ほっぺが落ちそう』では?」
ちょっとだけドン引きしている黒鍵騎士から静かな突っ込みが入ります。
「どっちも似たようなものじゃない? 落ちるか千切れるか。どっちにしろお肉が離れていくんだから」
「………………」
全然違う、とよほど言ってやりたくなりました。
「魔女。汁が頬についているぞ」
魔王は甲斐甲斐しく魔女の頬を拭いてやっています。
「ん、ありがと」
大人しく拭かれている魔女ですが、やはり食べることの方に夢中なのか、再び汚していきます。
そして魔王は魔女の頬をふきふきしてあげます。
「………………」
ロリ美少女が食べかすを付けていて、それを自分が甲斐甲斐しく拭いてやるという状況に、魔王は萌えゲージMAX状態です。
「……ほどほどにしとけよ」
ほくほく顔の魔王を横目に、勇者が呆れたように肩を竦めます。
「美味ですね」
黒鍵騎士は主人の残念な姿に慣れているのか、黙々と食事を続けます。
お正月二日目はこんな感じで過ぎていきました。




