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ゾンビは有効利用しましょう

 ある日の出来事です。

 魔女のお家に傭兵団がやってきました。

 先代魔女の記憶によると、この辺りで幅を利かせている傭兵団のようです。

「こんにちは」

 魔女は傭兵団を、正確には団長とその他数人を出迎えました。

「あんた誰だ? 魔女の弟子か?」

 新米魔女の顔を知らない傭兵団長が首を傾げました。

「ひひひ。若返りの薬を使って化けたのさ」

 魔女は大嘘をつきました。

 ちなみにこの魔女、声だけはとても可愛いのでそんな喋り方をするのはすごく似合いません。

 釘宮●恵の声でババア喋りをするようなものです。

「そうなのか?」

 傭兵団長ははてなと首を傾げます。

 それはそうでしょう。

 いくら若返ったと言っても面影すら残っていないのですから。

 先代魔女と新米魔女は顔立ちが全く違います。

「嘘だけどね」

「嘘なのかよっ!」

 そしてあっさり嘘だとバラしました。

 ババア喋りをするのが疲れたようです。

 疲れるの早すぎますね。

 この魔女っ娘は基本的に根性なしです。

「正確には先代魔女をぶっ殺して魔女に成り代わったんだよ。だから今は私が魔女なのだ。えっへん」

 魔女はあんまり大きくない胸を張ります。

「……胸を張るにはボリュームが足りないよ、お嬢ちゃん」

 ぼいんが好きな傭兵団長は微妙な気分で突っ込みを入れました。

「ババアのひょうたん乳で張られた方がよかった?」

「絶対見たくないなっ!」

 もっともです。

 そんなものは目の猛毒です。

 ……世の中のお婆ちゃんたちごめんなさい。

「それよりも何の用?」

 魔女は用件を尋ねます。

「魔女の傷薬を買いにきたんだがな。お嬢ちゃんじゃ話にならない。……いや、先代魔女が残してたりしてないか? あったら売って貰いたいんだが」

「先代のは残ってないけど先日私が作ったのならあるよ。それで良かったら買っていく?」

「お嬢ちゃんが?」

 傭兵団長は胡散臭そうに魔女を眺めます。

 自分の半分にも満たない少女が取引を持ちかけているのだからまあ当然の反応でしょう。

「魔女の記憶継承は正しく行われているから効果は同じはずだよ。出来も確認した。買う?」

「ふむ」

 傭兵団長は考え込みます。

 少女とは言えあの老獪な魔女を倒した強者です。

 しかし目の前にいるのは明らかに人生経験も魔女経験も乏しそうな子供です。

「分かった。買おう。十個セットで銀貨十枚でどうだ?」

 傭兵団長が提示した金額は先代魔女の取引価格の十分の一でした。

「論外。確か傷薬は一個あたり金貨一枚で売っていたはずだよ」

 そして先代の記憶を持っている魔女はその事もしっかり知っています。

「だがそれを作ったのはお嬢ちゃんだろう? あのババアほどの効果があるかどうか分からないじゃないか」

「私が未熟だと、そう言いたいわけ?」

 魔女はむっとします。

 舐められていることが分かったからです。

「違うとでも? 実際お嬢ちゃんは新米なんだろう?」

「新米だからといって値切っていい理由にはならない。この傷薬は先代のものとなんら遜色はないのだから」

「おいおい。大人しく売った方が身のためだと思うぜ?」

 傭兵団長はついに剣を抜いて魔女へと突きつけました。

「脅すつもり?」

「まあな。安く手に入るならそれに越したことはねえし?」

 傭兵団長はにやにやしています。

 完全に魔女を舐めているのでしょう。

「はあ」

 魔女はため息混じりに呪文を唱えました。

 舐められっぱなしで黙っているほど優しい性格ではありません。

 炎の魔法で焼き払ってもいいのですが、せっかくの取引相手を殺すのも勿体ないので脅迫する方向で思考を進めています。

「ゾンビ一号から十号まで、集合~」

 のんびりとした口調でゾンビ召喚を行いました。

「ひっ!?」

「ぎゃひっ!?」

「ななな!?」

 家の裏手からゾンビが出現しました。

 一号から十号まで、合計十体です。

 骨が見えていたり眼球がはみ出ていたり、肉が爛れていたり、それはそれはえげつない外見をしています。

 ゾンビ兵は戦闘力こそ大したことありませんが、何度でも甦ることと、その見た目だけで相手を怯ませてくれるのでこのような場面ではとても便利です。

 ちなみにこのゾンビ兵、先代魔女の遺産です。

 魔女の家に泥棒に入ったり強盗したりする輩を返り討ちにして裏手に埋めていたら、いつの間にか死体が増えてしまいました。

 折角だから再利用できるようにとゾンビ化魔法をかけていたのです。

 そして起動呪文を引き継いだ魔女が今は利用しています。

「で、やる?」

 魔女はにこにこした表情のまま傭兵団長に微笑みかけます。

 後ろにゾンビ兵を従えたまま無邪気に微笑むその姿はまさしく魔女です。

 ある意味において先代よりもおぞましい姿です。

「ぶるぶるぶるぶるっ」

 傭兵団長は震え上がりながら首を振りました。

 もちろん横に。

 後ろの部下達も同じようです。

 中には失禁してしまった者もいるようです。

 臭いので勘弁してください。


 結局、傷薬は定価で売ることが出来ました。

 十個セットで金貨十枚。

 ちなみに金貨一枚で一万円ほどの価値があるようです。

 十万円ほどの稼ぎですね。

 脅迫ついでに上乗せしても良かったのですが今後の取引相手を減らす必要もないのでそのままのお値段で売ってあげました。


「姐さん! またよろしくお願いしますっ!」

 すっかり魔女の力を見直した傭兵団長は魔女のことをそんな風に呼ぶようになりました。

 お嬢ちゃんよりはマシですが、だからといって姐さんと呼ばれるような年齢ではありません。

 しかも相手は自分の父親ほどの年齢ですから余計に複雑です。

 魔女はまだ十三歳になったばかりなのです。

「姐さん言うな」

「ではお嬢とかどうですか?」

「うーん。なんか極道の一人娘みたいな?」

「ゴクドーってなんっすか?」

「なんでもないよ。こっちの話」


 結局『お嬢』に決定しました。

 まあ、『姐さん』よりはマシということで。


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