笑った顔も泣いた顔も
魔獣の卵生産魔法陣は、今日もぽこぽこ卵を産んでいきます。
鶏のお尻のごとく生んでいきます。
もちろん魔法陣にお尻なんて存在しませんが。
「ますたぁ~。このたまごわってもいい?」
その様子を興味深そうに眺めていたにゃんこがそんな事を言います。
「駄目だよ。危ないからね。この卵を割ったらにゃんこなんて頭から丸かじりにされちゃうよ~」
魔女はにゃんこをだっこして魔法陣から引き離しました。
「まるかじり?」
「うん。丸かじり。がぶっといかれちゃうよ」
「が、がぶっと?」
にゃんこは魔女の腕の中でぶるぶる震えながら問い返します。
「まずは頭に歯形を付けられて、それから頭蓋骨にヒビが入って、脳みそちゅるっと平らげられて……」
「にゃーっ!」
リアル描写で説明してくれる魔女に震えを通り越して恐怖で叫びだしてしまうにゃんこでした。
魔女はにゃんこが大好きです。
にゃんこを虐めるのも大好きです。
笑った顔も泣いた顔も大好きです。
……ちょっと困った愛情です。
「ぼ、ぼくわらないよ! たまごぜったいにわらないよ!」
「うんうん。それが賢明だね。割ったら脳漿飛び散っちゃうからね~」
「にゃーっ!」
あまり褒められた方法ではありませんが、危険から遠ざけるには恐怖を植え付けるのが一番効果的です。
魔女はにゃんこが軽率なことをしないように、にゃんこの安全を守る為に敢えて怖い表現を使ったのです。
……二割くらいは。
残りの八割については純粋な嗜虐心……じゃないといいですね。
「ほらほら、外で遊んでおいで」
「にゃう~。そうするぅ」
にゃんこは魔女の腕から降りて、逃げるように外へ行ってしまいました。
その後ろ姿を見送ってから、
「うーん。虐めすぎたかな?」
泣き顔は大好きですが逃げられるのはちょっぴり傷つきました。
魔女の後ろで魔法陣がもう一つ卵を産みました。
目標数まであと百五十個ほどです。
直前で増量要請などがあるかもしれないので二割ほど多めに創っておきます。
儲け話は見逃しません。




