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「……という経緯なのだが、どうだろうか?」

 魔王は魔女に尋ねます。

 人間と魔族の事情、世界の事情など、複雑なようで単純な構造に少しだけ呆れてしまっているようにも見えます。

「なんかそれだけ聞くと戦争っていうよりも戦争ごっこって感じだよね」

「……否定はせんよ。実際の本質はそれだ。だがどんなにヤラセじみていても、それがお互いにとって必要なことならば仕方あるまい」

 魔王もため息混じりに答えます。

「そんなくだらない戦争ごっこに巻き込まれた勇者はとんだ災難だったのかもね」

 二百年前にいきなり召喚されて、なし崩し的に侍から勇者へとクラスチェンジさせられた勇者のことを考えてちょっぴり可哀想になってしまいました。

「そうでもないだろう。勇者は戦うことが出来ればそれでいい性格だからな。真性のバトルマニアだ。実力以上にあの性格で勇者に選ばれたのだと余は考えているぞ」

「あー……そういえばそんな感じだったかも。憐れみ損だぁ」

 戦う場所と敵の姿があればそれでいい。それが悪なら尚更いい。それが勇者の言い分です。

「つまりバランスを取るために必要なんだね。魔獣戦力が」

「その通りだ」

「で、さっきの話から推測するに、魔王にも人間の土地を征服する意志は全くない、と」

「そんな事に魅力は感じない」

「おやおや。これはまた魔王らしからぬ意見だね。魔王といったら世界征服が基本なのに」

「人間達の間でもそんな風に語り継がれておるな。しかし考えてみるがいい。魔族は人間よりも優れた身体能力と魔力を持っている。そして長命だ。だがその分、人間達よりも圧倒的に個体数が少ない。ハルマ大陸を管理するだけで手一杯なのだ。

 仮に我々が人間の土地を征服したとしよう。ハルマ大陸よりも遙に広大な大地だ。少ない魔族から管理人材を派遣して、魔族とそこに住む人間が生活できるように環境を整えなければならない。勝戦処理の人材も別途用意しなければならないだろう。そんな事をすればハルマ大陸の方が人材不足で混乱に陥ってしまう。

 魔族だって一枚岩ではない。好戦的な種族ならばこの隙に政権交代を狙ってくるだろう。つまり余を王の座から引き摺り下ろすことだな。魔族社会は弱肉強食が基本だ。余に統治能力がないと判断されればすぐに引き摺り下ろされるだろう。

 そして魔族の内乱に人間側の大陸から戦力を呼び戻している内に、今度は人間側の逆襲が始まる。当然、戦力の差からすぐに潰される。

 魔族の内乱で消耗した上に、人間側の逆襲で減った戦力を更に削られる。

 そういった未来が簡単に予測できてしまう。だから人間の土地は支配しない。それだけの余力は魔族側に存在しない」

 長い説明を終えて、魔王は溜め息をつきました。

「……今の状況で魔族側にこれ以上の犠牲を出したくないんだね。代替品として魔獣戦力が必要なわけか。……戦争ごっこに荷担するのも馬鹿らしい話だけど、否定するほどの理由もないかな。一般的なレベルの魔獣でいいのなら一体当たり金貨十枚で引き受けるよ」

 一般的なレベルの魔獣は、クマとライオンを足して二で割った感じです。

 一般兵士が三人がかりでようやく一体を倒せるレベルです。

「構わない。とりあえず千体ほど頼めるか?」

 魔王はそう言って持ってきた金貨一万枚をテーブルの上に置きました。

 ボロ儲けです。

「りょーかい。受け渡しはどうする?」

「出来上がったら通信魔法で余に連絡してくれ。受け取りに向かおう」

「あ、なんだったら届けてあげようか?」

「何?」

「魔族の土地にも行ってみたい。もちろん賓客扱いで」

 好奇心旺盛な悪いクセが出てきました。

 いつか痛い目を見そうです。

「……それは構わぬが、安全は保証できぬぞ。さっき言った通り、魔族も一枚岩ではない。好戦的な種族が何らかの危害を加えてくる可能性がないとは言えない」

「その辺りはきちんと装備を調えていくよ。魔王のお尻を焦がしたんだから一般的な魔族に遅れを取るとも思えないしね。もちろんしっかり準備していればだけど」

「……うう。それもそうか。魔女が構わぬというのなら好きにするといい。来訪の際は出来る限りの護衛を付けよう」

「やったー!」

 こうして魔女と魔王はギブアンドテイクの関係を築くのでした。



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