歴史のお時間
古来より、魔族と人間は争いあうものと決まっています。
誰が決めたことなのかは分かりませんが、世の中の仕組みとしてそういうことになっているようです。
それは異世界であっても地球世界のファンタジー小説であっても変わりません。
世界共通ルールです。
ワールドワイド的な暗黙了解なのです。
そもそも魔族が存在しない地球世界であっても人間同士の戦争が多発しているのですから、種族の違う者同士が仲良くなろうなんてことは土台無理な話です。
個人間では可能ですが、世界レベルでは有り得ません。
何故なら生物には自分と違う存在に対する許容限界というものが存在するからです。
同じ種族でも他人と長く過ごせば衝突することがあります。
自分ではないものと接し続けていれば必ず摩擦が起こります。
人間同士ですらそうなのですから、人間と魔族の共存関係が実現するのは夢物語を通り越した虚無物語です。
ではどちらかを滅ぼせばいいのかと言われれば決してそんな事はありません。
仮に人間が魔族を滅ぼしたとしても、今度は人間同士の争いが激化するでしょう。
魔族が人間を滅ぼしたとしても、結果は同じです。
ではどうすればいいのか。
答えは簡単です。
お互い適度に争って、適度に犠牲を出して、自分たちは決して相容れない敵同士なのだと認識できるようにすればいいのです。
戦い合うことで相互間のストレスは緩和されていきます。
犠牲が一方ではないのでお互いに妥協できます。
人間と魔族はこのようにして戦争を続けながら、ある意味では共存してきました。
あるときは自然界のバランスが崩れてしまったお陰で人間側が不利になる場合もありましたが、その時は勇者召喚により勢力回復を果たしました。
お互いに争い続ける。
しかし決してどちらかを滅ぼさない。
そうやって人間と魔族は、第三者から見ると無駄としか思えない行為を続けてきたのです。
二百年前に人間側のバランスが崩れたように、今回は魔族側のバランスが崩れてしまいました。
創成族の不妊問題。
そして何よりも魔族が生息するハルマ大陸では自然災害が相次いでいます。
火山の噴火、長雨による作物の被害、地震による被害などなど。
ここ二十年ほどであらゆる自然災害が集中してしまいました。
魔族と人間は定期的に戦争を繰り返しています。
双方に適度な犠牲を出しながら。
しかしここ数年は魔族側に余力がないのです。
自国の食糧問題や災害復興などに追いやられて、戦争をするほどの余裕がありません。
このまま人間との戦争を避け続けていれば、いずれ人間側の不満が爆発してしまいます。
二百年前、人間側が魔物の被害に対応して戦争を避けていた隙に、好戦的な魔族が人間側の大陸へと攻め込んでしまったように。
このままでは不味いと魔王は考えます。
魔王でなくとも考えます。
戦力増強が必須です。
しかし長命の魔族は人間と違って、人口そのものを増やすには長い年月が必要になります。
人間側はそこまで気が長くないでしょう。
魔獣の戦力を増強しようにも、創成族は不妊事情を抱えてしまっています。
そこで二百年前に人間側が異世界の勇者に頼ったように、今回も異世界の魔女に救いを求めてみようと考えたのです。
こちら側の人間に何の義理もない魔女ならば、報酬次第で引き受けてくれるのではないかという期待を抱いて、魔王は魔女の住む家へとやってきたのです。




