はじめての傷薬
「ごりゅごりゅごーりゅ♪」
異世界に召喚されて、魔女の餌にされかけて、自衛に成功した少女は魔女になりました。
魔女っ娘と言うべきなのかもしれませんが、連続して表現するとかなりイタい文章になりそうなので、ここは大人しく魔女と表現することにしましょう。
「ごっりゅ、ごっりゅ♪」
新米魔女は傷薬の調合をしていました。
いくらババア魔女の記憶継承が行われたとは言え、実践しなければその力も身に付きません。
なので一番簡単な傷薬の調合から始めることにしました。
花嫁修業ならぬ魔女修行です。
教科書は魔女の記憶。
変な鼻歌は呪文ではなく気分で歌っているだけです。
きっと粉をごりゅごりゅしているからそういう風に歌っているのでしょう。
……ちなみに、ちょっと音痴です。
「できた♪」
傷薬完成です。
『白の祝福』
用法:怪我の治療。
効用:打ち身、擦り傷はもちろん、刺し傷や腕足が千切れたときにもくっつけられるくらいよく効く。
さすが魔女の傷薬です。
効用がチート仕様です。
傷薬は小瓶に詰めます。十本分出来上がりました。
本当に良くできるかどうか確認するために器に残った傷薬で実験することにしました。
「ちゅーちゅーちゅーっ!!」
床をうろついていた鼠を捕まえて、そのまま四肢を切断しました。
とても残酷です。
新米とはいえさすがに魔女です。
そして四肢と一緒に傷薬の残っている器の中に鼠を放り込みました。
鼠はしばらく器の中でジタバタしていましたが、魔女が四肢を近づけてやるとすぐにくっついてしまいました。
「やった。成功だねっ!」
やっていることは残酷ですが魔女は無邪気に喜びます。
その表情だけ見れば純真無垢な少女そのものです。
……中身はともかくとして。
四肢を取り戻した鼠は慌てて器の中から逃げ出します。
その目には恐怖が刻まれていました。
器の中だけではなく魔女の家からも逃げ出してしまいました。
きっと二度と戻ってこないでしょう。
魔女の家は餌場として最上級だったのですが、あんな実験に利用されてまで居座りたいと思えるほどの魅力はありません。
シワシワのババア魔女から美少女魔女っ娘に家主が変更してからちょっと目の保養になるぜ~とか思っていたおめでたい思考を呪いたくなったくらいです。
中身がババア以上に残虐だなんてタチが悪すぎます。
そんな鼠の思考回路など当然の如く気にしない魔女は、いそいそと傷薬を棚に収納しました。
次は惚れ薬でも作ってみたいな~などとのんびり考えます。
異世界の魔女っ娘ライフ、それなりに満喫しているようです。