感動的なセリフの予感?
「魔女殿……」
「黒鍵騎士……」
迷っている魔女に対して黒鍵騎士は何も言えませんでした。
何を言っても黒鍵騎士のわがままになってしまうと思ったからです。
もちろん帰ってほしくない、ずっとここにいてほしいという気持ちはあります。
ですが魔女が故郷で普通の女の子として過ごすことは、魔女自身の幸せにつながるのではないかと、どうしてもそう考えてしまうのです。
家族や友達がいるはずの故郷で、もう一度学生としてやり直すことが、魔女の為ではないかと、どうしても考えてしまいます。
「………………」
そして少し離れたところに控えていた勇者も何も言えませんでした。
あそこはかつて自分がいた世界であり、ずっと昔に帰りたいと焦がれた世界でもあります。
しかし空間の歪みから垣間見える世界は、勇者の知るそれではありませんでした。
長い時間が流れ、世界は勇者の知らないものになってしまっています。
ですから、あそこに帰りたいとは、今の勇者は思えませんでした。
しかし魔女は違います。
あの世界は、魔女にとってはよく知る場所なのです。
まだ、帰りたいと思える場所であるはずなのです。
同じ世界出身であっても、決定的に違ってしまった時間の流れが、二人の願いを違うものにしています。
だから勇者は魔女と黒鍵騎士、そしてにゃんこに成り行きを任せることにしました。
自分が口を出していいことではないと思ったからです。
魔女がこの世界を好きになってくれるように、ここにいたいと思ってくれるようにそれなりの努力をしてきたつもりの勇者ですが、今は引き留めたい気持ちを必死でこらえています。
選ぶのは魔女です。
そしてその結果を左右するのは黒鍵騎士とにゃんこなのです。
「私は……」
黒鍵騎士を見ながら、魔女が口を開きます。
自分が選ぶ結末を、未来を言葉にします。
手を握って、黒鍵騎士を見上げて、そして笑います。
とても感動的なセリフを言う予感が……




