最終回っぽい流れ?
「うっそぉ……」
それは、先代魔女の遺産と言えるものでした。
暴走した魔力が空間をゆがませ、そして先代魔女が仕込んでいたとある魔方陣を起動させてしまったのです。
それは、次元歪曲魔方陣でした。
「………………」
歪んだ空間は円を描き、そして世界の向こう側を映し出しています。
「わたしの家だ……」
それは、魔女の故郷でした。
十階建てのマンションは、魔女がいなくなったときのままの姿でそこに建っています。
下にはコンビニエンスストアがあり、今も誰かが出たり入ったりしているようです。
つい今しがた出てきた学生は、魔女がかつて通っていた中学校の制服を着ていました。
そこは、間違いなく地球なのです。
この円を飛び越えれば、魔女は故郷に帰ることが出来ます。
「………………」
暴走と同時にこんな魔法が発動したのは間違いなく偶然でしょうが、魔女にとっては運命でもあるのかもしれません。
魔女自身、ずっと迷っていたからです。
これ以上この世界で暮らしていけば、元の世界に帰りたいという気持ちは欠片ほどもなくなってしまうと。
にゃんこがいて、黒鍵騎士がいて、魔王や勇者やスカルくんたちがいるこの世界が、とても居心地の良いものになっていたのです。
しかし魔女にとっては故郷のことも同じぐらい大事で、家族に会いたいという気持ちも捨てきれるものではありませんでした。
「私は……」
今なら、帰れる。
それを確信した魔女は、自らが蹴散らしたクラール王国軍のこともきれいさっぱり忘れてしまい、本気で迷ってしまいました。
帰りたいという気持ちはもちろんあります。
ですが、同じぐらい帰りたくないという気持ちもあります。
「ますたぁっ! いっちゃやだっ!」
そして一歩踏み出そうとした魔女の手をにゃんこが握りました。
「にゃんこ……」
「やだ……かえっちゃやだよますたぁ! ぼくをひとりにしないでっ!」
にゃんこは泣きながら魔女にしがみつきます。
これが魔女の故郷に通じるものだと分かっているのでしょう。
「私は……」
魔女はにゃんこの頭を撫でながら、黒鍵騎士を振り返りました。




