悪役魔女って割と似合う?
「愚か者め! 魔女の領域を荒らした報いを受けるがいい!」
魔女は軍勢の前に立ちはだかり、子供らしい口調の一切を排除して宣言しました。
それは邪悪な魔女のイメージにふさわしい、真っ黒な雰囲気を漂わせた声でした。
「循環魔力圧縮。ルナソールオーバードライブ!」
ルナソールを掲げた魔女は、普段は押さえている全能力を開放します。
元々魔女自身の魔力は大したことないのですが、外部の力を取り込んで自身の力として扱うことにかけては天才的な才能を発揮するので、こうなると一軍が相手でも凶悪な戦闘力を発揮してくれます。
「怯むな! 弓隊! 魔法隊! 撃て!」
怯むなと言った軍人A本人がやや怯んだ声を上げながらも、それでも引き連れてきた軍勢に攻撃を命じます。
魔女が相手ということでそのほとんどを遠距離攻撃系で編成したようです。
上空に浮かぶ魔女に矢と魔法が放たれました。
「ますたぁ!」
にゃんこが悲鳴を上げて魔女に呼びかけますが、腹黒モード全開になった魔女相手にそんな攻撃は通用しません。
「しゃらくさいっ!」
魔女はルナソールの一振りでそれらを弾き飛ばしました。
自陣側に返された矢と魔法がクラール王国軍の何割かに被害を及ぼします。
阿鼻叫喚のクラール王国軍ですが、魔女はふははははと高らかに笑い続けています。
すっかり悪役魔女が嵌っていますね。
それを離れた位置から眺めていた勇者と黒鍵騎士が青ざめた顔でため息をつきます。
「……なあ、魔女の方がよっぽど『魔王』に向いてるんじゃないか?」
「私も今それを考えていたところです」
「上司の鞍替えするか?」
「……やめておきます。毎日がもふもふセクハラ地獄になりそうですから」
「別に今と変わらなくね?」
「………………」
阿鼻叫喚のクラール王国軍に対して、戦いに手を出していない二人はなんとも緊張感に欠ける会話を続けるのでした。
ちなみににゃんこは腹黒モードの魔女相手にがくがくぶるぶる震えています。
心配はしていないようですがますたぁこわいよぅと涙目になっていました。




