恐怖! 海の幸残虐トーク!
それから地球世界のお話をしてあげました。
海の都、海を統べる一族なだけあって地上の肉料理や野菜料理は沢山振る舞われましたが、海の幸はひとつもありませんでした。
なので魔女は嗜虐心全開で海の幸についてのお話をしました。
「それでね~、お魚を活け作りにすると、頭や骨がぴくぴくなっておもしろいんだよ~」
「ぎゃーっ!」
一族も、海に生きる魚たちも全てが家族のようなヴェルスにとっては恐怖話です。
ムンクのような顔になって震え上がります。
「あとね~、船の上から銛で鮫を仕留めたり……」
「ひいいいいっ!」
「海老を背中から串でぶっ刺してから生きたまま焼くってのもあるよ~」
「な、なんという恐ろしいことをーっ!」
「クルマエビなんかだとね、生きたまま頭をもいで、殻を取ってビクビクする身を口の中に放り込んで噛み千切るっていう躍り食いもあるんだよ~」
「ざ、残虐すぎるーっ!」
「え~美味しいのになぁ。あとはイカの活け作りとか、カキの炭火焼きとか、アサリの酒蒸しとか、蛤の醤油焼きとか……」
「ま、魔女殿~、どうかその辺りで許してくだされ!」
眷属が滝のような涙を流しながら魔女を止めようとしますが、
「え~。地球の話を聞きたいって言ったのはそっちじゃん。私は懇切丁寧に出来る限り多くの情報をもたらしてるだけなのに~。特に日本人はお刺身大好物だからさ~。生の魚肉は最高だよね~。あ、鮪も好きだよ。大トロとかもう最高~」
「ひぎゃあああああーーーーっ!」
……という感じでヴェルスとその眷属を恐怖のどん底に叩き落としたのでした。
彼らには海の幸を食する習慣がありません。
同じ世界に生きる存在への慈悲を持っているからです。
もちろん地上の人間達はそんな事お構いなしで魚や貝類を食しますが、それは弱肉強食の掟として受け入れています。
しかしここまで的確に、詳しく、リアルな言葉で魚肉料理の話をされるとつい色々想像してしまい、涙が止まりません。
「魔女殿、わざとだろう?」
「え~、なんのことかな~? 少なくとも私の世界だと常識だよこの程度。私もお刺身大好きだし」
「……我も好きだが、しかしなぁ、よりにもよって海の一族にそんな話をセレクトする必要はなかったように思うが?」
白銀龍が責めるような眼差しで魔女を見つめます。
「誘拐犯にはちょうどいいしっぺ返しでしょ」
「……根に持っているのか」
「それなりにね。お陰で帰るのが遅くなっちゃうし。なるべく早く帰るってにゃんこと約束したのに」
「……なるほど」
にゃんことの約束を守れそうになかったから怒っている、ということでしょう。
なんだかんだでにゃんこにはとことん甘い魔女でした。
後に残されたのは涙で目を腫れさせたヴェルスと眷属達。しばらく夢に出てきそうです。
「さてと、そろそろ家に帰りたいから地上まで送ってよ」
「……分かった」
逆らう気力もなくなっていたヴェルスは、弱々しい声で転移魔法を使いました。
「じゃーねー」
「……これに懲りたら魔女殿とはきまぐれに関わらぬ方が良いぞ」
気安く手を振る魔女と、親切にも的確な忠告を残す白銀龍。
二人の姿は一瞬で消えて、海上へと転移していました。
白銀龍はすぐさま龍の姿に戻り、魔女を背中に乗せました。
「帰るか?」
「帰ろっか」
そして過流海域から飛び立つのでした。




