魔女さんのご立腹
「殺す殺す殺すあの巨人なに身の程弁えずに私のにゃんこにモーションかけてんの死にたいの殺されたいのきっとそうだねよしそうしよう私がそうしてあげようむしろ私が手を下してあげようにゃんこの勝負がおわったら私が殺しに行こう……」
「わー! 目がイってるぞ! 落ち着け魔女!」
「そ、そうです! 落ち着いてください魔女殿!」
ふしゅー、ふしゅー、とイってしまった目でやばい事を呟き続ける魔女を、勇者と黒鍵騎士は宥めるのに必死でした。
「相変わらず怖いな……」
魔王だけは少し離れた場所でぶるぶると震えていました。
魔女の暴走状態を思い出したのかもしれません。
「ほ、ほら、もふもふだぞ~。魔女の大好きなもふもふだぞ~。なでるなり握るなり舐めるなり好きにしていいぞ~」
勇者が黒鍵騎士のもふもふを掴んで魔女の手に掴ませます。
「ちょっ……勇者殿!? 人の尻尾だと思って何好き勝手なこと言ってるんですか!?」
人身御供ならぬもふもふ御供にされてしまった黒鍵騎士が勇者に抗議します。
「そんなこと言われてもな。こんな状態の魔女を落ち着かせるにはもふもふしかないだろうが」
「それはそうですけど……」
「ふしゅー……ふみゅ……もふ~……」
「ほら、効果覿面だ」
「………………」
本当にもふもふ一つで落ち着いてきた魔女に、黒鍵騎士はなんとも言えない気持ちになりました。
ここまでくるとマニアというよりは病気の域です。
「魔女殿……ほら、にゃんこが勝利すればいいわけですし、ね? 殺すのはやめてあげましょう? ね?」
もふもふされながらそれでも魔女を宥めている黒鍵騎士でした。
苦労人すぎます。
ある意味で涙を誘う光景です。
「殺しちゃダメ?」
「……上目遣いで言っても駄目です」
「じゃあもふもふさせてくれる?」
「……あんまり関係ないですけど、それで魔女殿の怒りが収まるのなら犠牲になりましょう」
「わーい!」
「ひゃああああっ!!??」
言われた途端、もふもふからセクハラレベルのもふもふになりました。
黒鍵騎士、哀れすぎます。
でもちょっぴりは気持ちいいはずです。
それを押さえつけるのがまた大変なんですが。




