海神の宴
海神ヴェルスの誘拐……もとい招待の宴はまだまだ続きます。
完膚なきまでに打ちのめされたヴェルスですが、十分もすれば完全回復してしまいました。
いっそのこと本気でエロ方面を極めるのも悪くない、などと胸を張っているあたり、将来がとても恐ろしい気がします。
「せっかくだから異世界の話を聞かせてくれぬか? 俺はそれが聞きたくて魔女を招待したのだ」
ヴェルスは牛串をほおばりながら魔女に笑いかました。
「いいけど、なんで? 神様だったら異世界をのぞいたり出来ないの?」
「さすがに無理だなあ。次元干渉は創造神や古龍の専門だ。もちろん一時的に次元転移や干渉は可能だが、回数は限られる。そう頻繁に行えるものではないのだ」
「へえ。じゃああのババアってば結構すごいことをやったんだね」
「ババア? ああ、先代魔女のことか。そう言えば魔女は何のために召喚されたんだ? 特にこの世界での役割があるとも思えぬのだが」
「知らない方がいいと思うよ。期待外れな理由だから」
「そう言われると是非とも知りたいな」
ワインを掲げながらヴェルスは言います。
魔女の方はジュースです。ストローでちゅるちゅる飲みながら肩を竦めました。
「だから餌だよ餌。珍しい肉が食べたいからって理由だけで召喚されたの」
「なんと! そなた食用なのか!?」
「ちがうわっ!」
食肉扱いされた魔女はジュースのグラスをヴェルスに投げつけました。
「ぎゃっ!」
顔面に直撃したヴェルスはちょっと鼻血を出してしまいました。エロ方面の鼻血じゃないですよ。
かくかくじかじかで~、みたいな説明をしてから魔女は溜め息をつきました。
「そんな感じで特別な理由も役割もないわけよ。戻る方法も分かんないし。今となってはこっちが結構楽しいから無理に戻る必要もないかな~と思ってるし」
「ふむ。古龍ならば次元魔法の専門家だからそなたを元の世界に戻せると思うがな」
「古龍にはまだ会ったことがないなぁ」
「魔女殿。古龍に会うのはお勧めしない。アレは独特のルールで生きている存在だ。人間の言葉に耳を傾けるとは思えない」
「そうなの?」
白銀龍の忠告に魔女は首を傾げます。
次元魔法の件は別にしても、会えるものなら会ってみたいと思っていたからです。
「確かに、白銀龍の言う通りでもある。アレは神でもない癖に創造神に継ぐ力を持ってしまった生物だからな。人間はおろか、我々一般神の言葉にすら耳を傾けない。古龍が対等だと認める相手は創造神だけだ」
「なんか……結構凄い存在だったりするわけ?」
「神として生まれていないにもかかわらず神と同等の力を持ってしまっている、と言えば分かるかな?」
「なんとなく……」
とにかくすごい存在なんだな~ということを漠然と想像する魔女でした。
神様じゃないけど神様みたいなすごい龍、という認識です。




